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†
娘たちが退室したあと、側近たちを帰すと、モーリアスはその月色の瞳を見開き、ふいに大粒の涙を零れさせた。
我慢していたせいか、後から後からあふれ出す。
視界が歪み、何が何だか分からなくなって、自分がどこにいるのかさえ分からなくなりそうだった。
ぽろぽろと零れ落ちる透明な雫を隠すようにうつむいて、片手で顔を覆う。
痛い、と思った。
乗り越えられたと思っていたのに、もう平気だと思っていたのに。
そうでなかったことに打ちのめされる。
心の傷の深さを思い知らされたようで、つらい。
覆った指の間から、ぽつぽつと伝う雫が、膝の上で握り締めた片方の手に落ちていく。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
心が、締めつけられる――――。
「アサーシャ……」
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
きつくきつく、唇を噛み締めて。
何度も何度も胸中でつぶやいた。
シリウスはただ何も言わずに佇んでいる。見てみぬ振りをしてくれている。今はそれが何よりもありがたかった。
どんな慰めも、やさしい言葉も、今は欲しくない。
今はただ、思う存分、泣かせて欲しい――――。
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