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「モーリアス、すまなかった。つらい思いをさせてしまったな……」
シリウスがそう言ったのは、帰り間際になってからだった。深く頭を下げて、心からの謝罪を述べる。
モーリアスは静かに「いえ……」とかぶりを振った。
「どうか顔をお上げてになってください、シリウス。わたくしはあなたに心から感謝しています。……娘たちへのお心遣い…わたくしは胸が熱くなりました」
わたくしが泣いたのは昔のことを思い出したからではない。あなたの娘への心遣いが嬉しかったからだと。そういうことにしておいてくれ、と言外に伝えたのだ。
「ありがとうございました」
たくさんの意味を持った、ありがとうだった。
娘たちへの心遣い。涙を見てみぬ振りをして泣かせてくれたこと。泣いている間ずっとそばにいてくれたこと。
そして、あの後くれた言葉。
涙を拭い顔を上げたとき、シリウスは真っ直ぐ自分の目を見て言ったのだ。
『モーリアス、泣きたいときは思い切り泣くといい。あなたは何でも抱え込みすぎる。それと』
一度言葉を切ると、真剣な瞳でこう続けた。
『ふたりを、信じるんだ』
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