第一章 3 女神の涙と決意

2/13
前へ
/142ページ
次へ
       3 「モーリアス、すまなかった。つらい思いをさせてしまったな……」 シリウスがそう言ったのは、帰り間際になってからだった。深く頭を下げて、心からの謝罪を述べる。 モーリアスは静かに「いえ……」とかぶりを振った。 「どうか顔をお上げてになってください、シリウス。わたくしはあなたに心から感謝しています。……娘たちへのお心遣い…わたくしは胸が熱くなりました」 わたくしが泣いたのは昔のことを思い出したからではない。あなたの娘への心遣いが嬉しかったからだと。そういうことにしておいてくれ、と言外に伝えたのだ。 「ありがとうございました」 たくさんの意味を持った、ありがとうだった。 娘たちへの心遣い。涙を見てみぬ振りをして泣かせてくれたこと。泣いている間ずっとそばにいてくれたこと。 そして、あの後くれた言葉。 涙を拭い顔を上げたとき、シリウスは真っ直ぐ自分の目を見て言ったのだ。 『モーリアス、泣きたいときは思い切り泣くといい。あなたは何でも抱え込みすぎる。それと』 一度言葉を切ると、真剣な瞳でこう続けた。 『ふたりを、信じるんだ』
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加