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†
「……モーリアス、何かあったときは知らせてくれ。力になろう」
「ええ」
「決してひとりで抱え込まないこと。いくらあなたでも限度というものがあるのだから」
「分かっていますよ。もう」
子供に言って聞かせるような口調に、くすくすと苦笑混じりに答えると、太陽の化身は肩をすくめた。
「だといいが」
不意に月色の瞳が鋭く尖(とが)る。
「それ、どういう意味です?シリウス」
「そうそう。しおらしいあなたも魅力的だが、やはり月の女神はそうでなくては」
「シリウスっ」
と、ぱたぱたと回廊を走る足音がふたつ、慌ただしく聞こえてきた。
「リディア、フィリス」
はあはあと息を切らしたふたりの美姫は美しいドレスを今は脱ぎ、純白の簡素なドレスを纏っていた。
やわらかな材質らしく、風を含んでふわりと揺れる。その拍子にのぞく白い足首に金と銀の鈴を連ねた飾りが見えた。
ふたりの動きに合わせてちりちりと、か弱く澄んだ音色を響かせる。
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