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「シリウス」
「ん?」
モーリアスはつ、と居住まいを正すと優雅な身のこなしで最高の礼をとった。
「本当にありがとう。あなたがいてくれなかったら、わたくしは自分のなすべきことを見失うところでした」
「おやおや、あなたらしくない言動だな」
シリウスのふざけた物言いにムッとしながらもそれに救われている自分の心。それを確かに感じ取って、モーリアスはゆっくりと微笑んだ。
前まで作り笑いをするので精一杯だった自分が、今は自然に笑うことが出来る――。
すべての不安が消えたわけではない。
心の傷が癒えたわけでもない。心の傷は想像以上に深かったのだ。今も傷口から血は流れ続けている。けれど。
それは自分が歩んできた道だから。後戻りは出来ないし、やり直すことも出来はしない。
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