32人が本棚に入れています
本棚に追加
「椎名さま、なぜわたくしは精霊として生を受けたのでしょう。神はなぜわたくしに…人としての生を……」
与えてくださらなかったのでしょう。
フィリスは椎名の腕の中、華奢な身体を震わせた。
「あなたが人であっても精霊であっても、この気持ちは変わりません。わたしはあなたの人柄に惹かれたのだから」
言いながらなんてありきたりの言葉だろうと、自分の不甲斐なさに嫌悪を覚える。
なぜもっと、負担を軽くするようなことが言えないのか。
だがそれは椎名の素直な気持ち。
嘘偽りのない想いだった。
なんの飾りもない言葉。だからこそ、想いは強く伝わるもの。
心からの言葉にフィリスは胸を熱くする。
「憶えていますか?フィリス。初めて出逢ったときのこと」
「ええ……」
微笑みが微かに揺れる。
それにいくぶん安堵して、椎名は続ける。
「それほど時は経っていないはずなのに。不思議ですね。まるで何年も、この逢瀬を続けているような気がしますよ」
最初のコメントを投稿しよう!