第二章 1 過去の傷跡

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「椎名さま、なぜわたくしは精霊として生を受けたのでしょう。神はなぜわたくしに…人としての生を……」 与えてくださらなかったのでしょう。 フィリスは椎名の腕の中、華奢な身体を震わせた。 「あなたが人であっても精霊であっても、この気持ちは変わりません。わたしはあなたの人柄に惹かれたのだから」 言いながらなんてありきたりの言葉だろうと、自分の不甲斐なさに嫌悪を覚える。 なぜもっと、負担を軽くするようなことが言えないのか。 だがそれは椎名の素直な気持ち。 嘘偽りのない想いだった。 なんの飾りもない言葉。だからこそ、想いは強く伝わるもの。 心からの言葉にフィリスは胸を熱くする。 「憶えていますか?フィリス。初めて出逢ったときのこと」 「ええ……」 微笑みが微かに揺れる。 それにいくぶん安堵して、椎名は続ける。 「それほど時は経っていないはずなのに。不思議ですね。まるで何年も、この逢瀬を続けているような気がしますよ」
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