第二章 1 過去の傷跡

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痛いほどの強さで伝わってくる。 (ああ……) 満ちる安堵の気持ちと、共有する想いに支えられ、ウィルグは最後の足掻きを捨てた。 その途端、内なる声が言葉を豹変させる。 受け入れろ、逃げるな、とささやく声音に頷(うなづ)いた。 たくさんの精霊が心に癒えない傷を負った。たくさんの血と涙が流れた。 誰も口には出さなかったけれど、運命の悪戯によって望まざる結果を引き寄せてしまったふたりの義姉妹を、哀れと思っていた。 口を閉ざしたのは、誇り高い乙女であった主が同情を何よりも嫌うことを知っていたから。 そしてその想いが、真新しい傷口に塩を塗り込むことだと知っていたから。 あの、継承の儀のとき。 涙に濡れた月色の瞳の奥。 傷ついた想いを抱えてなお、自らの運命を受け入れ、挑もうと決意した瞳に多くの者が胸を打たれ、忠誠を誓ったあの日に。 集った者すべてが誓った、もうひとつの想い。
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