第二章 1 過去の傷跡

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――――哀しい想いをするのは、自分たちだけでいい。もう二度と、繰り返させるものか! それは、願いであったのかもしれない。 それは、祈りであったのかもしれない。 それでも。 胸が熱を帯びてゆく。 二度と、繰り返すものかと固く誓った決意は、今も心の内で燻(くすぶ)っていたのかと、自身の胸に手を当てた。 続けるべき言葉は、とうに失われてしまった。 ウィルグが過去を繰り返してはならないと思った時点で、モーリアスの言葉は真実であると、認めたも同じだったから。 認めることを、受け入れたのだから。 (どのような想いで、モーリアスさまは……) それだけが、気がかりだった。 きつく瞑ったままだった瞼を押し上げ、玉座の主を仰ぎ見たウィルグは愕然と瞳を見開いた。唇が何かをつぶやこうとして微かに動く。 「……っ!」 なぜ!? ――――月の女神は、微笑んでいた。
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