第二章 2 精霊の惑い

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けれどここで現実から目を背けて逃げるわけにはいかない。 負けるわけには、いかないのだ。 弱気になっている自分を鼓舞するようにそう何度も繰り返す。 「そうよね、シリウス。自分自身に誓ったもの……」 今自分に必要なのは、苦しみを力に変える強さであろう。 ふいにコンコンと扉をノックする音が耳朶(じだ)を打った。はっ、と表情を引き締める。 瞬間、モーリアスを押し包む女神としての威厳。 「開いているわ」 凛と響く声音から、弱々しさは消えていた。 背筋をぴんと伸ばし、顔は真っ直ぐ前を見据えている。 我ながら素晴らしい化けっぷり……などと妙なところで感心しつつ、こんなことじゃ駄目なんだけれど、という自己嫌悪が胸にせり上がってきた。 誰かに弱味を見せるという事に、自分はかなりの抵抗があるようだ。 『あなたは何でも抱え込みすぎる――』 シリウスの言葉が今更ながら蘇る。
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