第二章 2 精霊の惑い

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どこまで出来るのか、自分に何が出来るのか。まだ分からないけれど、人界をあのままにしておく事はできない。 とにかく、今は自分の成すべきことを成さなければ。 そう自分につぶやいて、拳を握り締めた。 今は出来ることをしよう。        † かくして、月の女神モーリアス、次期女神候補リディア、フィリス、側近の長ウィルグのみで進められる儀式は、ほどよい緊張を孕(はら)みつつ、執り行われた。 ウィルグの掲げ持つ杯に満々と湛えられた聖水にモーリアスの指先が触れる。その指をふたりの頭上で閃かせると、透明な雫が散った。 厳粛な空気が押し包むなか、玉座の前に跪(ひざまず)いたリディア、フィリスの頭上に聖水が煌いた。 二度、三度。 それを幾度となく繰り返すうち、姉妹の月色の髪が光沢を放つ金髪に。月色の瞳が蒼く澄み渡った空の色へと変貌を遂げた。 それを見届けたモーリアスは玉座から立ち上がり、天に向かって掌をかざした。 あざやかな紅を刷いた唇が唄うように呪文を紡ぐ。 ――――――――我れ、月の加護を司りし者。 美しい調べを持つそれは、女神のみに行使することを許された、特別な呪文であった。
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