第二章 2 精霊の惑い

8/10
前へ
/142ページ
次へ
だが、人に紛れても埋もれることは決してない。 瞳の強い輝きと身に纏うきりり、と張られた弦のような危うい雰囲気が、埋もれることを許さない。 それはなんとも美しく、痛々しい姿であった。だからこそ眩いばかりの輝きを放つのであろうが……。 それは、黄昏に輝く明星のように見るものの心を否応なく魅了し、同時に切なくさせた。 あの方たちの傍(かたわ)らに、張り詰めた糸を解してくれる者がいてくれたなら……。 このような痛々しい瞳を見ることも、なかっただろうに。 ここまで悲壮な覚悟を胸に抱くことも、なかっただろうに。 残酷すぎる。……いっそどちらかが辞退すれば。 そこまで考えて、馬鹿げた空想だと自分で自分を嘲笑った。 お互いを認めているからこそ、それを彼女たちはよしとしない。 ここで辞退することは、相手を見下すことと同意語だ。 誇り高い彼女たちにとって、それはなによりの屈辱となるだろう。 長い時を共に過ごし、相手がどう思うかなど知り抜いているからこそ、ふたりは降りない。降りられない。絶対に。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加