第二章 2 精霊の惑い

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(傷つけると、知っているのだ。こんなにおやさしい方々なのに……) 否、やさしいからこそ降りようとしないのだ。 (本当にお互いを好いておられる) そのやりきれなさに、ウィルグは唇を噛んだ。 歴代の女神候補もこうであられたのか? ……そうであろうな、と哀しくウィルグは瞳を伏せた。 風、地、火、水、光、闇の精霊は多くうまれるが月、太陽を司る精霊はごく稀にしか生れ落ちない。いつ生まれるのか何人生まれるのか……それはすべて気まぐれな天の懐に託されていた。 精霊にそれを操る術(すべ)も、未然に知る術もない。 太陽神であるシリウスさまの時はおひとりであったが、モーリアスさまの時はおふたり……それが悲劇を生んだ。 だからリディアさまをこの手に抱いたとき、安らかに眠る赤子の幸せを心から願いながら、同時に未来を憂いてもいた。 どうか月の精霊のさらなる誕生がないようにと天に祈ってすらいたのだが……。
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