第二章 3 兆し

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聖月宮の外れにある、降臨の扉から人界へと降りていく精霊たちをモーリアスの傍らで見つめながら、ウィルグは静かに語りかけた。 「モーリアスさま。精霊が姉妹を得ることは、果たして幸福なことなのでしょうか?」 「……ウィルグ?」 一度逡巡したが、諦めたようにため息をつく。 胸の淀みを吐き出すかのように、するすると言葉が溢れでた。 「わたしにはわからないのです。仲が良ければ良いほど、常なら幸せなはずなのに。あのおふた方を見ていると……仲が良いことが、まるで不幸なことのように思えてくる」 そう言うと、ウィルグは沈痛な面持ちでうつむいた。 「争わなければならないと分かっているのなら、いっそ仲悪くあれば……そうすれば、どれほど楽で、当人たちも見ている方も心を痛めずにすむでしょう」 モーリアスは微かにうなずくと、おもむろに天を振り仰いだ。 「そうですね。確かに仲が最初から悪ければ、争うことになったときに心にかかる負担は少なくてすむかもしれない。けれどそれは長く続く苦しみの延長でしかないでしょう」
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