第二章 3 兆し

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モーリアスの紡ぐ声は柔らかな風にかき消されることもなく、しっかりとウィルグの耳朶を打つ。 「苦しみの延長、ですか?」 問い返すウィルグに、少し歩きましょうかと言って、神殿とは逆の方向へ歩を進めた。 小高い丘がその先に見える。 「憎み合うということはとても苦しいことです。常にわだかまりを抱え込むことになりますからね。そんな自分の心と向き合って生きなければならないのですから。目を背けることは許されません。まして憎んでいる相手が姉妹などという近しい存在であれば尚のこと、胸のわだかまりも肥大してしまうでしょう」 ふ、とウィルグを顧(かえり)みると、慈愛に満ちた瞳を和ませてモーリアスは続けた。 「それに傍らで見ている方も、つらいものではありませんか?」 「!」 ウィルグが答えようと口を開いたとき、モーリアスの言葉に呼応するかのように、強い風が一陣吹き抜けた。 精霊界にあって珍しく強い風。 ウィルグの瞳が一瞬険しくなった。
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