第二章 3 兆し

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が、すぐに平静を取り戻すと、肩の力を抜くようにそっと息を吐き出す。 「そうですな……。たとえ血の繋がりがなくとも、姉妹と呼ばれる間柄であれば仲良くあってほしいと、傍(そば)にいるものなら願ってしまう」 踏みしめる土の感触。鼻腔をくすぐる草の匂い。 それらの存在がウィルグの心を落ち着かせる確かな一因となっていた。 「つらく苦しい時がずっと続けば、心はその重荷で麻痺してしまう。だから争うことになっても、苦しいことを苦しいと感じられなくなってしまうのですよ」 「本当は苦しいのに本人がそれに気づかない……なんとも愚かでやりきれないことですな」 眉間に皺を刻み、なんの気なしに思ったままを口にした。 そして、はた、と気づく。 さっきまで自分がそれを楽なことだと言って肯定しかけていたことに! 愕然と頬を強張らせて歩みを止める。否、意識せずして止まったのだ。 わたしは、なんという……! きり、と唇を噛み締め、ウィルグは胸中で呻いた。 「ウィルグ」 立ち尽くす側近を振り返り、モーリアスは静かにかぶりを振った。
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