第二章 3 兆し

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「自分を責めてはいけません。誰にでも過ちや思い違いはあるものです。間違いに気づいたのなら、素直に道を正せばいいだけのこと。口で言うほど簡単なことではないけれど」 言って、モーリアスは穏やかに微笑んだ。 「あなたは強いのね」 突然、脈絡のないようなことを言われて、困惑気味に主を見る。 「強い?このような老いぼれが?」 「わたくしが言っているのは心のこと」 唄うようにささやいて、女神は側近の瞳を見返した。 「心……?」 「そう。あなたは自分の間違いを素直に認めることができる。それは素晴らしいことよ。誰にでも出来ることではないわ」 ああ、この方はすべてを受け入れた上で自分を思いやってくださっている。 じんと胸が熱くなった。 「…………モーリアスさま」 この方に仕えていることを心から誇りに思う。 再び歩き出した主の背中を見ながら、ウィルグの心は確かに温かさで満たされていた。
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