第二章 3 兆し

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知らず、頬に笑みが浮かんだ。 (月の女神となられて初めて……本音でわたしを頼ってくださった。必要としてくださった!) その事実が、なによりも嬉しかった! 「モーリアスさま……要は皆の不安を取り除けばいいだけのこと。なあに、心配なされますな。皆、モーリアスさまのことを心から信じ、お慕い申し上げておりますのでな。モーリアスさまが大丈夫、心配はいらないとただ太鼓判をおしてくだされば、皆安心してもとの元気を取り戻しましょう」 「ですが、この不安の元をつくったのはわたくしです。わたくしの過去がすべての元凶。太鼓判をおしたところで……」 言い淀む主にウィルグはきっぱりと断言した。 「いいえ。だからこそでございます。皆、分かっておるのです。モーリアスさまが今までどれだけ苦しんできたのか。どれだけ深い傷をその胸に抱いておられるか。皆、よく分かっております」 「ウィルグ……」 茫然とつぶやく主に苦笑を湛えた瞳で続けた。
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