第二章 3 兆し

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なぜ分かったのだろうと、戸惑いに揺れる主の瞳を仰ぎ見て。 「気づかないと思っておられたのですか?見くびってもらっては困りますぞ、モーリアスさま。早くから気づいておりました。けれどあなたはそれを隠そうとなさる」 「…………!」 すべて見透かされていた事実に絶句する主にウィルグはゆっくりと首を振る。 「それがわたし達に負担をかけまいとする思いやりなのだと知っておりました。だから今まで何も言わず見守って参りました。見守ることしかあなたさまは許して下さらなかった。それがどれほど歯がゆく、傍にいるものにとってつらかったか」 そこまで言うと、ウィルグはやれやれと肩をすくめた。 「愚痴になってしまいますが、この際全部聞いていただきますよ。本当は皆、あなたに頼って欲しかったのですよ。その為に側近は……いえ、同胞(どうほう)はいるのですからな。なのにあなたはまったくわたし達を頼っては下さらなかった」 そこにモーリアスを責める響きはなく、ただ思い出を振り返るようにウィルグは語る。 だから返ってモーリアスはつらかった。 そこに、諦めという感情が潜んでいることが分かったから。 それほど長いとき、負担をかけ続けていたのかと思うと、胸がふさぐ。 こんなにも多くの想いに守られていながら、ひとり苦しみを抱えていた己のなんと愚かであることか。 滑稽ですらないだろうか? 頑なに肩肘張って生きていた自分の姿が目の前に浮かんで見えるようであった。
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