第二章 3 兆し

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「そんなに頼りない側近であろうかと悩みもしました。だがやっとわたしを頼ってくださった。……それが何よりも嬉しいのです」 心からの言葉であると声の響きは告げていた。 胸に、心に、直接響いてくる。 ウィルグは一度瞬くと、強い語調で言い放った。 「一度は己の力不足ゆえ、目の前で繰り広げられる悲劇をほぞを噛んで見ていることしか出来なかった。二度目は心から敬愛する主に苦しい胸のうちを話してもらえず、見ていることしか出来なかった。……もう、見ているだけは懲り懲りです。どうせなら、渦中に身を委ねたい。ずっとそう思って参りました。これでやっと、その望みが叶います」 これで胸を張って、側近だと言える。信じられる。 だからウィルグはなんのためらいもなく、つけ足すことが出来た。 先ほどのように救ってばかりは狡うございます。このような老いぼれですが、今度はわたしがあなたを救うばん……支えるばんにございます、と。 それまで何を言わず、否、言えず黙したままだったモーリアスの瞳から、美しい雫が珠となって転がり落ちた。陽の光を受けて真珠のように頬を伝う。 それに一番驚いたのは、モーリアス自身であった。
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