第二章 3 兆し

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頬に指を滑らせ、涙に濡れた頬の感触を確かめる。 (泣きたいときに、泣けた……) 自分の中で何かが少しずつ変わり始めている。 シリウスの言葉どおり、自分は素直に泣くことが出来たのだ。 モーリアスの頑なに他人を寄せ付けなかったところが変わっていく。自分の弱さを確かに認め、受け入れようとモーリアスの中で何かが変化を遂げようとしていた。 頬を伝う雫は途切れることがない。 それでいいんだと、シリウスなら言うだろう。 モーリアスも無理に止めようとは思わなかった。 これが、真の己れなのだと思ったから。 だが、これに狼狽したのはウィルグである。 「モ、モーリアスさま!?いかがなさいました!?ああ、わたしが言い過ぎましたか……。主に対してわたしはなんという……!」 叫ぶや否や片膝をつき、額に主の手を押し付けた。 臣下が主に詫びる時にとる、最高の謝罪の礼である。 モーリアスは慌てて涙を拭うと、ウィルグの額に押し付けられた手を引っ込めた。 「違いますウィルグ!ああ、何ということを!さあ、立ちなさい。早く!」
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