序章~逢瀬~

7/8
前へ
/142ページ
次へ
あなたに逢えなくなることが、こんなにも。 怖い――――。 「…………」 椎名は静かに受け止める。 他に何もしてあげられない。 愛する人が己のことで苦しんでいるというのに! はかり知れない無力感と悔しさが椎名の心を荒れ狂う。 抱き締める腕に力がこもった。 どれだけそうしていただろう。 ふたりは葉擦れの音をどこか遠くに聞いた。山吹色の花弁が風にのって舞い散る。ちらちらと降り注ぐ花弁の……大樹の涙? やがてフィリスの震えは収まり落ち着いた呼吸が戻る。椎名はそれを感じて口を開いた。 「フィリス、わたしはあなたと出会ったことを後悔などしていません。今苦しんでいることにも、きっと意味はあるはずです」 やさしい、穏やかな声音だった。そして強い意思のこもった声音だった。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加