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あなたに逢えなくなることが、こんなにも。
怖い――――。
「…………」
椎名は静かに受け止める。
他に何もしてあげられない。
愛する人が己のことで苦しんでいるというのに!
はかり知れない無力感と悔しさが椎名の心を荒れ狂う。
抱き締める腕に力がこもった。
どれだけそうしていただろう。
ふたりは葉擦れの音をどこか遠くに聞いた。山吹色の花弁が風にのって舞い散る。ちらちらと降り注ぐ花弁の……大樹の涙?
やがてフィリスの震えは収まり落ち着いた呼吸が戻る。椎名はそれを感じて口を開いた。
「フィリス、わたしはあなたと出会ったことを後悔などしていません。今苦しんでいることにも、きっと意味はあるはずです」
やさしい、穏やかな声音だった。そして強い意思のこもった声音だった。
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