第二章 3 兆し

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腕を引っ張って立たせる。 ウィルグが瞳を見開いて戸惑いの声をあげた。 「し、しかし……」 「違うのです。謝罪すべきはわたくし。あなたたではありません。……それにわたくしは嬉しくて泣いたのです!」 まくしたてるように放たれた言葉は悲鳴のようで、ウィルグは混乱のただ中に突き落とされそうになった。だがそれを押しとどめたのは、モーリアスの最後の言葉。 ――――わたくしは嬉しくてないたのです! 「嬉しく、て……?」 茫然とつぶやくウィルグにモーリアスは深くうなずいて見せた。 少しでも落ち着くようにと、瞳をまっすぐに見返して。 「そうです。わたくしはあなたたちの想いが嬉しかった……」 また瞳に涙が浮かぶ。 胸がぬくもりで満たされてゆく。 「アサーシャのことがあって以来、わたくしは自分にしっかりしなければと言い聞かせて生きてきました。ただただ女神として完璧であろうと必死になって……。そうすることで、わたくしはアサーシャに償いたかった」
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