第二章 3 兆し

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モーリアスは目元をそうっと拭うと、毅然と顔を上げ、聖月宮を睥睨した。 きん、と空気の色が変わる。 圧倒的な存在感がその場を支配した。 モーリアスであってモーリアスではない者。 月の女神が、そこにいた。 「これから時を紡ぐのはあの娘たちです」 凛々と響く声音。 その声音に、ウィルグの肌がぞくりと粟立つ。 「ウィルグ」 「はい」 この方は……。 ぎこちなくごくりと生唾を飲み込んで言葉を待つ。 「わたくしの支えに……なってくれますか?」 微妙に震えたその言葉にウィルグは目を見張ると……。 「はい」 月の女神の瞳に幾度目とも知れぬ涙が浮かぶ。大輪の花が綻ぶように、極上の微笑が頬に刻まれた。 真実、女神となるためにこの世に生を受けられたのかもしれぬ――。 「ありがとう……」 唇から零れた言葉は、ウィルグの耳に届くとすぐ、風にさらわれ溶けていった。
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