32人が本棚に入れています
本棚に追加
モーリアスは目元をそうっと拭うと、毅然と顔を上げ、聖月宮を睥睨した。
きん、と空気の色が変わる。
圧倒的な存在感がその場を支配した。
モーリアスであってモーリアスではない者。
月の女神が、そこにいた。
「これから時を紡ぐのはあの娘たちです」
凛々と響く声音。
その声音に、ウィルグの肌がぞくりと粟立つ。
「ウィルグ」
「はい」
この方は……。
ぎこちなくごくりと生唾を飲み込んで言葉を待つ。
「わたくしの支えに……なってくれますか?」
微妙に震えたその言葉にウィルグは目を見張ると……。
「はい」
月の女神の瞳に幾度目とも知れぬ涙が浮かぶ。大輪の花が綻ぶように、極上の微笑が頬に刻まれた。
真実、女神となるためにこの世に生を受けられたのかもしれぬ――。
「ありがとう……」
唇から零れた言葉は、ウィルグの耳に届くとすぐ、風にさらわれ溶けていった。
最初のコメントを投稿しよう!