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姉と別れ、人界へと降り立ったフィリスが向かった街は、帝都ルインという街であった。
フィリスにとって、思い入れの深い街である。
なぜならば、そこはフィリスのもっとも愛する者、椎名の住む街であったから。
ふたりはこのルインで出会い、愛を育んできた。
長い時を生きる精霊にしてみれば、瞬きほどの時間。
それでも、胸の中であたたかく輝く、大切な時間。
瞼を閉じて見えるのは闇ではなく、美しい煌きに彩られた真新しい映像。
ひとつひとつ、すべて憶えている。
忘れることなんて出来ない、一生の宝だ。
見ることも、触れることも叶わない宝だけれど、それでいいとフィリスは思う。
見えないからこそ、大切なもの。
触れられないからこそ、大切なもの。
この世にはそんな宝で溢れているのだろう。
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