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†
フィリスと椎名が出逢った日。それは、初めてフィリスが人界に降り立った日でもあった。
賑やかな声に誘われるようにフィリスはルインという大きな街に降り立った。
街はひかりが灯された篝火(かがりび)のように夜空に向かって光っていた。
帝都ルイン。
それがその街の正式名称であると知ったのは。ずいぶん後になってから。
その時は大きくて整備されたきれいな街だと思っただけだった。
まず、街の人気のないところに降り、髪を金色に瞳の色を澄んだ蒼に変え、白いヴェールを頭からすっぽり被る。服装を白で統一したのは、巫女が好んで纏う色だと知っていたから。これで、人から声をかけられる心配がぐっと減る。
「……でよぅ。…のやつ……」
「うそだろ……なん……!」
「わあっ。母さん、これキレーっ」
「はいはい。後にしましようね。帰りに買ってあげるから」
「えーいま買ってよぅー!」
フィリスの耳に届く途切れ途切れの喧騒。
はやる心を抑えるために一呼吸おいて、人込みに紛れた。
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