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肩がぶつかってもおかしくない人込みの中、フィリスは風が木々の間を縫うように巧みに進む。ヴェールを押さえ、ひらひらと裾を閃かせながら洗練された動きを見せるフィリスに、すれ違う人々の視線が注がれる。
美貌を隠してはいるものの、持って生まれた気品は隠しようがなかった。
フィリスはまわりの様子など気にもとめず、ひたすら人の流れに沿って歩いた。
出店に立ち並ぶ香水やアクセサリーの数々。おいしそうな食べ物の匂い。人々の活気。それらすべてが新鮮に映る。
(この世界をいつか守護する時がくるのだわ……)
そう思うと、深い感慨が込み上げてくる。
「巫女さん、ちょっと見ていかないかい?いいアクセサリーがあるよ」
ふっくらした唇のよく似合う、人のよさそうな女主人が営業スマイルを浮かべて声をかけてくる。
フィリスはふと立ち止まって逡巡した後、好奇心に負けて露天に近づいていった。
「さあさあ見てっておくれ。あんたにはどんなのが似合うかねぇ?顔、見せとくれよ」
困ったように首を傾げ、フィリスはヴェールを抑えてみせる。
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