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椎名自身に言い聞かせているような、その声音。
胸が詰まって苦しい。言葉にならない切なさが込み上げる。
「椎名、さま」
「わたしたちの未来を信じましょう、フィリス。今流している涙も、苦しみもいつかきっと……」
言葉は続かず、余韻だけが残りふたりを包む。
椎名の腕の中、フィリスは震える指先を胸の前で白くなるほどにぎり込むと、何度も何度も頷いた。
「はい…」
本当は知っている。信じることの愚かさを。
「はい……はいっ」
本当は知っている。信じることの残酷さを。
その先にあるのは痛みと絶望。
それを認め受け入れて、ただ哀しいと嘆くのは簡単なこと。きっと楽。
それでも怯えながらも縋(すが)り、希望を捨てず。
そうやって足掻くふたりの心を誰が愚かと断じ、責めることが出来るだろう――。
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