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通りの視線を一身――いや、二身というべきか――に集めたのは、言うまでもない。ふたりの容姿や仕草の称賛だけではなく、そのほとんどは、見目麗しい青年と、顔を隠し、純白の衣装を身に纏った気品溢れる乙女が手を繋いで歩いているという構図に想像力を刺激された人々の、好奇心という無粋なものに溢れた眼差しだった。
しばし無言で歩き続けたが、とうとう耐えられなくなってふたりは大通りを逸れて狭い路地に入っていった。
「大通りを外れると、さすがに暗いですね」
誰にともなくつぶやくと、椎名はそこで初めてフィリスを振り返った。
「災難でしたね」
災難、とはいっても自分の自業自得と言えなくもないような。
うろたえて、フィリスはどう答えるべきか迷った。
「あ……」
それでも何とか言葉を絞り出そうと苦心する。
あれこれ迷った挙句、肝心なことを言っていなかったことに気がついた。
「先ほどはありがとうございました」
言って深々と頭を下げる。さらり、と見事な金髪がヴェールから零れ落ち、その拍子にヴェールもふわりと落ちた。
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