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理屈ではなく、そうしなければならないと思った。でないと自分は大切な何かを失ってしまう。大切な何かが手の届かないところに行ってしまう。
《運命》という名の大きなうねり。
椎名は本能としてそれを感じ取ったのだ。
「追いかけないと……」
突き動かされるように、椎名は壁から身を起こす。
†
(なんなの!?もう……っ)
唇を噛み締めながら大通りを抜け、舞台の設えられた広場へと出たフィリスは荒い息を鎮めつつ、石造りのベンチに腰をおろした。
色とりどりの花々がそこここに飾られ、美しい灯篭(とうろう)が等間隔につるされている。円形の広場の中心には大きな時計塔がそびえ立っていた。その前に舞台。
通り過ぎる人々を眺めながら、ため息をつく。
フィリスはとにかくひとりになりたくて、それらしい場所を探すことにした。
冷たいベンチから立ち上がり一通り見渡すと、広場の横に木立が見えた。近づいてみると、どうやらそれなりの奥行きがあるらしい。
暗がりに目を凝らしてみても、人がいる気配は感じられなかった。
(ここなら……)
フィリスはなるべく目立たないように木立の狭間へと分け入り、喧騒から離れたところでほっ、と息をつく。
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