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木に寄りかかって空をふり仰ぐと、木の葉の途切れた場所から紺色に染まった夜空が見えた。ダイヤモンドの煌きを湛えた銀の星は冷たく輝き、紺の空を飾っている。丸く満ちているであろう月は、木陰に隠れて見えなかった。
初めて見る美しい夜空にフィリスはほんの少しだけ、救われたような気がした。
(なにをやっているの……)
まだ乾ききれていない瞼を指でなぞって、ため息をこぼす。
落ちてきた髪を煩(わずら)わしげに払って、眉宇(びう)をひそめた。
「人の暮らしを、知るんじゃなかったの……?」
ふいに、榛色の射抜くような瞳を思い出し、ぷるっと身を震わせた。
恐怖が背中を這い上がってくる。
何度振り払ってもよみがえる映像にフィリスは怯えた。
「帰ろう……かしら」
このままここにいても、何の意味もない。
唇を噛み締めて、見えぬ月を見上げたとき。
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