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ぬくもりが、身体を包み込んでいた。
「大丈夫ですか?」
問われて初めて、椎名によって支えられていることに気がづいた。
「は、はい。ありがとうござ……っ!」
椎名の腕にすっぽり抱きとめられていたフィリスはぱっと離れる。
自分でも何故だかよく分からないまま、頬を熱くする。
「え?――あ」
フィリスの行動の意味をすぐに理解した椎名の頬にも朱が散った。
気まずい沈黙が流れ、両者共に無言のまま赤くなる。
椎名はその沈黙に耐え切れず、何とか会話の糸口をつかもうと必死に言葉を探し出す。
「あの……さっきはすみませんでした。どうかしていたんです。初めて会った人にとんでもないことを」
フィリスは戸惑って椎名の顔を見上げる。
榛色の瞳はひどくやさしくて、射すくめるような鋭い輝きは微塵もなかった。
この青年の姿はどちらが本当なのだろう、と。
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