第三章 1 出会い

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物珍しそうに眺めているフィリスを横目に見て椎名はくす、と微笑んだ。 「もし、良かったらわたしと踊ってくれませんか?」 差し出された手。 フィリスは少しはにかみながら、おずおずと手を重ねた。 たったそれだけのことなのに、とても意味があるように思えたのは何故だろう? 「そういえば、まだあなたの名を聞いていませんでしたね」 フィリスは言葉に詰まり、進めかけていた足を止めた。 その場に、凍りつく。 「どうしました?」 悪気のないやさしい笑みを見上げたまま、フィリスは泣きたくなった。 精霊が人と交わることは禁忌とされている。 名を名告(なの)るなどもってのほか。 その掟が、フィリスの肩に重くのしかかる。 「わたくし、は……」 声が掠れてうまく言葉が紡げない。
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