32人が本棚に入れています
本棚に追加
物珍しそうに眺めているフィリスを横目に見て椎名はくす、と微笑んだ。
「もし、良かったらわたしと踊ってくれませんか?」
差し出された手。
フィリスは少しはにかみながら、おずおずと手を重ねた。
たったそれだけのことなのに、とても意味があるように思えたのは何故だろう?
「そういえば、まだあなたの名を聞いていませんでしたね」
フィリスは言葉に詰まり、進めかけていた足を止めた。
その場に、凍りつく。
「どうしました?」
悪気のないやさしい笑みを見上げたまま、フィリスは泣きたくなった。
精霊が人と交わることは禁忌とされている。
名を名告(なの)るなどもってのほか。
その掟が、フィリスの肩に重くのしかかる。
「わたくし、は……」
声が掠れてうまく言葉が紡げない。
最初のコメントを投稿しよう!