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椎名の期待に満ちた眼差しがフィリスの心を追い詰めていく。
偽名を名告るべきだと理性はささやきかけた。
だが――――。
「フィリス、と」
口を突いて出たのは、真実の名。
人の名では決してありえない響き。
「え?」
何故だろう、椎名には真の名を知っていてほしかった。
フィリスの手が微かに震えていることに気づき、椎名はそっと力を込める。
とくん、とふたつの心臓が脈を打つ。
――――――この手を、離したくはない。
焼けつくようにそう願う自身の心が信じられなかった。
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