第三章 1 出会い

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椎名もフィリスも。 恋なのだと気づくにはあまりにも幼すぎて。 その想いはあまりにも、純粋すぎて。 離れたくはない。離したくはない。 ただひとつの願いが呪文のように繰り返される。 世界のすべてが崩れ落ち、お互いだけがすべてになる。 時が止まってしまえばいい。 人界で読まれる安っぽい恋愛小説に目を通すたび、フィリスはそんな馬鹿なと一笑にふしていた。 時は止まらない。確実に着実に流れていくもの。 つまらぬ幻想だと。 だが、これは何としたことだろう。 自分はいま、そうあってほしいと望んでいる。 指先のぬくもり。ずっと感じていたいと望んでいる。 どんなに願っても、決してありえぬと知っていながら……。 椎名とともにありたいと、望んでいる。
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