第三章 1 出会い

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それでも、なけなしの勇気を振り絞る。握り締めた片方の手は胸の前で微かに震え、心臓は破れんばかりに高鳴った。 名告った途端このぬくもりが離れはしないかと怯えながら、息をつめてもう一度、響きに乗せる。 「フィリスと申します」 ヴェール越しに椎名の瞳が見開かれるのを知る。 だが、手に感じるぬくもりが離れることはなかった。 椎名はすべてを受け入れて、フィリスを愛したのだ。 思えばこの瞬間からすでに時は動き出していたのだろう。 ふたりが出逢ったはまさしく、運命。 この出逢いはあらかじめ定められた、必然。 若さゆえの愚かさで、ふたりはそう信じた。
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