Ⅲ.生成

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その日。体育館でなんだかんだあり、終礼を済ませて帰途についた。まだ陽は高く、ぽかぽかとした陽気の下で、晴れて新しく友達となった廉も加えて、三人で下校することになった。 「ふんふんふーん……」 どこかで聞いたことのあるような明るい調の鼻歌を披露しながら、咲季はスキップしていた。学校探検を満喫し、さらに新しく友達も増えて、ご機嫌のようだ。 「そういえば」 俺は廉に話しかけた。 「あ、はい」 「なんで咲季と知り合ったんだ? 二人とも六年生と一緒に行動してたはずだろ?」 それを聞いて、廉は苦笑した。こいつの表情、俺まだ普通の顔とこの顔しか見てないぞ。こうも苦笑いがよく似合う顔もないだろう。 「なんと言いますか……、順を追って説明するとですね」 「どうでもいいけど、どうして敬語なんだ」 俺の問いかけに、「会ったばかりなので……」とばつが悪そうに言った。俺が言うのもなんだが、廉は、その物腰といい口調といい、全く小一に感じられなかった。よく出来た子である。 「……まず、咲季ちゃんは六年生の方と一緒に探検に出ました」 まあそりゃそうだ。俺も先生に誘導されたしな。 「僕も六年生の方と一緒です。ところがあら不思議」 少し廉が苦笑を和らげ、微笑んだ気がした。しかしその新しい笑みの中にも、やはり諦めのようなものが垣間見える。 「階段の踊場でうろうろと単独行動をしている女の子を発見しました」 「よく分かった」 あのバカ、保護者同伴でもはぐれるのか。天然ってそういう意味で存在しているんじゃないだろう。誰に需要があるんだ。犬のお巡りさん辺りか。 「取り敢えずお前、面倒見良さそうだから、咲季を見てくれよ」 本来大学一年生となっていたはずの俺と小学一年生では、やはり会話のテンションの差がしんどい。佐竹さんの言う通りこいつはしっかりしているし、加えて小一なのだから、咲季と会話も弾むだろう。まさにウィンウィンの関係だ。
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