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「ええ……」
廉が、前をスキップで歩く咲季を見ながら困惑した。あれ、喜んで引き受けてくれるところじゃないのか。
「……分かった、二人で面倒見ていこう」
「面倒見るのは決定しているんですね……」
渋々妥協で提案しても、難色は消えない。厄介なことに巻き込まれたとでも思っているのだろうか。もしそう思っているのだとすれば、それは正解である。
やがて、俺の家が見える。
「じゃあ俺、ここだから。廉、咲季をよろしく」
「ばいばーい!」
咲季の元気な挨拶を尻目に手を振って玄関に入ろうとすると、細々と廉が口を開けた。
「あのー……」
「大丈夫、咲季の家まではあと二百メートルもないから」
「いえ、そうじゃなくて……」
俺の方を向きながら、廉は肩越しに真後ろを指差した。
「僕の家、ここなんですけど……」
「……」
一瞬、静寂が訪れる。
「えっ、なになに、れんくん、けんたくんのおむかいさんなの!? いいなぁー!」
向かいの家の姓が廉の“間宮”だったので、ひょっとするかもしれないと頭の片隅に置いてはいたが、まさか本当にその通りになるとは。事実は小説よりも奇なりとはこのことである。
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