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「キャルは…なんでついてきた?親父さんとも会えたのに」
オレより疲れてはいなさそうだし、体力あるけど。
歩き通しだ。
まったく疲れていないこともないだろう。
「…頭の中に聞こえる声がうるさいから。静かにしてって言いにいきたかったの。それにライもアンもいないのに、一人でお留守番なんてしたくなかった。
……例えばライとアンががんばって、魔物が世界から消えることになったときに、さよならってライにもアンにも言えないまま消えたくない…なんて思ったりして…」
キャルのその言葉にオレは体を勢いよく起こして、その腕を掴んだ。
額から落ちたタオルは膝に落ちた。
キャルは驚いたようにオレを見る。
オレは何をどう言えばいいのかわからないまま、今はここにいると確かに思うために、その腕を離せなかった。
「…なんでそんな顔しちゃうの?」
キャルは苦笑いのようにオレの顔を見て笑って、オレの頬にふれる。
頬に感じる小さな手のひらの体温は確かにそこにある。
「…消えない…よな?」
聞いてみるとキャルはオレから目を逸らすように俯いた。
「…わからないの。あたしがリスのままならもう寿命は尽きてる。あたしを生かしているのは、胸の中にある石。この石が壊れたら死ぬんだろうなって思ってる。
あたしに声を響かせる魔物をまとめている者を倒したら…石がどうなるのかわからない。わからないけど…、砕け散る気がするの。
もしも…、もしもアンの中にもこの石があったら…アンも死ぬ。だから…アンだけはどうにか助けてあげられないかなって、そんなこと考えた。ノアさんに…」
自分のこと考えた言葉でも吐いてくれればいいのに、アン王女の話になっていって。
それを止めるように、キャルの腕を引き寄せた。
キャルはバランスを崩したように少しオレに近づいて片手をつく。
「…オレは今、おまえが消えないでいられるのかって聞いてる。アン王女のことは聞いていないっ」
キャルの口振りがどうしても消えることを前提としているように聞こえて、オレの手は震えていた。
オレがやろうとしていることはどちらかを選べということなのか?
キャルか、多くの人間か。
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