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「…アンは…だってライが守るべき人だし…。アンのためにライは旅をしてあたしと会ったんでしょ?あたしの魔法じゃなく、完全な治癒ができるのなら、それを考えたほうがいいじゃない?」
まだアン王女のことを言いやがる。
そりゃそのとおりと言えるものはある。
だけど、オレがキャルから聞きたいのはそんな相談なんかじゃない。
魔物の石を残すしかキャルには生きる道がないとするなら。
どうすれば魔物の石を残したまま、魔物の侵攻を食い止められるのか。
魔物の数を増やすことなく、人が魔物に脅かされることなくいられるのか。
そっちを考えたい。
素となる石がなければ魔物は増えないとするなら、その素となる石がどうやって造られているのか。
参謀を倒すことよりも、そういうものを先に考えたい。
オレは、だって…。
なくしたくない。
ここに、目の前にあるその命。
「レーネ、サラム。どっちでもいい。聞こえているなら、その知識を貸してくれ。
キャルを生かすための道はないのか?」
オレはキャルをまっすぐに見たまま精霊に声をかけた。
レーネがその姿を現す。
《…その前に。キャル、うれしいときはうれしいって言わなきゃダメよ。ライを怒らせたくはないでしょう?》
レーネのそんな言葉にオレを見返していたキャルの目は潤んで、その涙を止めるように堪えた顔を見せる。
「だって…。アンのこと…」
キャルが口を開くとその涙は溢れて頬を流れ落ちた。
《責任を感じちゃってるのね》
レーネの言葉にキャルは頷く。
「それは…、けど、オレがキャルに頼んだ。オレがキャルを無理矢理連れていった。おまえが責任を負うことじゃない」
そのせいでノアを知らなかった間、片腕だった。
すべてはオレの責任だ。
キャルは言っても、涙を溢し続けてしまって。
ぽろぽろと落ちる涙はオレの胸に痛い。
その目がオレを見ると、オレはそこにたくさんの仲間が眠っているのをわかっていながら、その唇に唇を当てた。
軽くふれて目を開けると、キャルはオレを見ていて。
かなり恥ずかしくなって、その視線から逃げるようにキャルの背中を抱き寄せて、オレの肩に顔を押しあてさせた。
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