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「いや、まぁ、伊達に昔から親父にこき使われてねぇしな」
「そうなんですか?」
「あぁ――ッて……お前、聞いてたのか? 拾うんじゃねぇよ……! ってか無意識に答えちまったじゃねぇか!」
「すみません。以後気をつけます」
なんだか反抗期の子どもを持った母になった気分で、ほほえましい気持ちがする。
「……お前はさっさと物運べばいいんだ」
と、不貞腐れたように眉間に皺を寄せて、台所を指差した。
棚越しに一人で厨房で忙しなく動いている親父さんがいる。
また隼人さんを見ると、お客さんと話を仲良くしていた。
「はい、お待ち! きよちゃんよろしく」
親父さんはコツとお盆の上に、みたらしとうどんを乗せる。
はい、と聞こえるように言うと、汁がこぼれそうになりながらも、「お待たせしました」と各机に置いていった。
ふと、「なぁ」と話しかける声が背後から聞こえ、私は注文を取る最中に、聞き耳を立てた。
後ろには隼人さん。
「なぁ隼人。あんな子、居たっけ?」
そして入り口近くのやけに座高が高い――背の高そうな――浪人が、隼人さんに私のことを聞いていた。
――何故?
あんなひげ面の顔は、記憶にはない。
「あぁ、昨日入った新人さ。気になるのか?」
「そりゃあな、もしかしたら隼人の嫁さんかと思ってよ」
「ハハッ、おいおい何言ってんだよ。ありえねぇ。絶対にありえねぇ。第一あんなの俺の好みじゃねぇし」
「ふーん、ムキになんなよ。まぁ言われれば。お前、確か色気ムンムンが良かったんだっけか? ――じゃあ、あの子、どうしてここに置いてるんだよ?」
――何故、私のことを知りたがる?
「知らねぇよ。親父が勝手に連れ込んだだけさ」
「そういやあ~そうだな。おやっさん優しいからなぁ。住み込みか?」
「ん? あー………まぁな。二階の所の俺の部屋使ってんよ」
「へぇ」
後ろ髪を引かれながらも注文を取る仕事は後はなく、その会話はこれ以上聞けず、その浪人はみたらしを山ほど食べてから、帰っていった。
忙しなく動き回っているうちに、日が傾いて夕暮れになり、もうガランとした店は売り上げを伸ばして、閉店した。
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