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月世はぎょっとなった。
記憶にまだ残っている鮮やかな言葉だった。
「ゆきって」
「俺といる女だ」
「はい、余り覚えていませんが…」
月世は少し嘘をついた。あんなに嘲られたあの人をどうして余りと言えるだろう。
月世の中に重い布石を残し、高杉はそうか、と言うと何も聞かなくなった。
高杉さんはいつもそうだ。
自分から聞くよりも私からそのコトバを言うのを待つ。
誰にも助けを求めることはできないと知りながら、少し灯籠さんを探してしまう。
でも、もうこの事を言うのは、躊躇いのない事なのだが、私は自分でも知らぬうちに躊躇いがちに答えた。
「私の知る幸ちゃんは、…私が売られた遊廓にいました」
「遊廓に、じゃあお前も…」
「はい、そうです。私も檻の中に入れられていて、幸ちゃんはいつも声を圧し殺して泣いていて……幼い時の話ですけど」
「売られたのか、両親に」
その言葉に無神経だと思わない。
だって私は
「はい、そうらしいです、でも見たこともないですからもう後腐れはありません」
両親の顔すら覚えていないのだから。
きっぱりと答えると高杉さんは「そうか」と小さく答えた。
「あ、でもこの体質ですから、少しの間遊廓に居ましたが、すぐにまた捨てられましたし…――」
その後に、あったことは言えなかった。
口に出せなかっただけかもしれないが、私が懐かしそうに微笑むと高杉さんは、不敵に笑った。
「女は強いな」
「そうですかね?」
「お前が過ごしてきた時は無駄じゃねぇだろう」
「……さぁ、それはわかりません」
少しおどけて見せる。
そんな姿を見た高杉さんは、意味深に目を細める。
「見てみてぇモンだな、昔のお前」
「やめて下さいよ、見れる様な感じじゃないですから」
私は少し焦りながら言うと、意地悪するように笑う彼を愛しく想った。
久しぶりだった。高杉さんとこんなに話すのは。
高杉さんが話し掛けてくれるのも久しぶりだし、笑う事も久しぶり。
何より、高杉さんとこうして共に居ることができる事が嬉しかった。
同じ時間を過ごせることが幸せに思える。
例え私の存在を知らないと言われても、護りたい。
だから私は進む。
貴方と共に。
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