エブリスタ☆ギルド


【原稿】リレー小説『平成豊穣頽廃事件簿』
(2016.3.23~) ギルド企画 リレー小説『平成豊穣頽廃事件簿』 原稿の投稿トピです。投稿は小説本文のみ。 コメントやご意見・感想・ご質問は、【会議室】トピへどうぞ。
9PV10コメ

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10・ ピロ子ΘωΘ;
白と黒が待ちきれんとばかりに歌い出す。

「「“先生!ご主人の居場所は奥さんが知っています!!”」」

猫達のこの言葉に娘が目を見開き勢いよく婦人へ振り返る。その確信を得た表情を確認した猫はすかさず声を張り上げた。

「「“お二人がご主人と再会した姿が見えます!!”」」

「そんなハズはないの!!」

時が止まったかのような一瞬の間を開けて婦人は意外なほど大きな声を上げた。その表情は今まで取り繕っていた和服美人と同じ人とは思えない程落ち着きがなく、視線はあちこちをさまよっている。

やはり私の予想通りである。猫達も言うようにこの婦人は全てを分かっていてしらを切っていたのだ。

娘も薄々それに勘
9・ 和高 茉莉
「“先生、先生!”」

 言葉を続けようと息を継いだのを見計らってか、白と黒が同時に声をあげる。今私の背中を叩けば吸った息が「げんなり」と鳴ったに違いない、私はできうる限りの渋面をつくった。白が何事かつぶやき、黒がそれに賛同し、婦人は怪訝そうな表情を浮かべる。

「……おっと。ええ、些か“訛り”がきついですが、どうやらこういったことを言っているようです、“猫は未来を見ることがある”」

「婦人。あるいはご存知かと思いますが、海外のとある病院に患者の死を予知する猫がいたそうで」

 安い紙巻きを一本抜き取る、しかし娘にきつく睨まれたのでやめた。

「……猫」

「ああ失礼、私はこの手足(じょしゅ
8・ ぎんいろ
「時なんか巻き戻るわけないじゃん! オジサン何言ってんの!?」

 存外に大きな声で娘はわめいた。

「それは当たり前のことです。当たり前すぎて、そこまでムキになるようなことではないでしょう」

「そうですよ、はしたない」

 婦人が娘をたしなめる声を聞きながら私は目の焦点を遠方へずらす。

「時は巻き戻らない。だが、人はいつでも過去へトリップするすべを持っている」

 ぼやけた視界のなかでふたりが呆気に取られているのがわかる。

「追憶だ。頽廃した土地の民がかつての豊穣を想うように、人は良かったころに想いを馳せることができる」

 私の目は一冊の本に焦点を結ぶ。

「そして近ごろの貴方は良か
「失礼」

私は一言添えて立ち上がり――正直なところ、こうも度々椅子から離れるのは本意ではない。探偵とは常に安楽椅子の上で煙草を喫んでいるべきなのだ。フィールドワークは浅ましい。それが私の――数あるうちの――ひとつの美学である。

――もっともそれが、私の手足を不具とする根拠とはならない。

私は颯爽と窓へ寄り、開け放った。

“黒猫”が隠れていた。

有無を言わさず捕まえて脇に抱え、唖然とする依頼人をよそに今度は入口へ向かった。ブレーカーを上げる。

“白猫”が隠れていた。

私はやはりとっつかまえて空いている方の脇に抱え、席へ戻る。なおも依頼人は呆然と私達を眺めている。わたしは二匹共
6・ 池田 風太郎
「時計は主人の誕生日に娘と贈った物、鞄は新婚旅行で海外に行った時の物。そして指輪は結婚指輪です」

婦人は言葉を続ける。
真剣な表情の婦人に対し、娘の方は興味があるのかないのか、ずっとスマホと睨めっこだ。

「これ以上無くなると思うと不安で……特に“これ”は。最近は可能な限り、持ち歩くようにしていますの」

婦人が取り出したのは、一冊の分厚い書籍。
表紙を飾る言葉は、全て英語だ。

「私たちが出会うきっかけになった本ですの」

ここまで聞いて、探偵はある事に気が付く。
婦人が語る、無くなった品。その順の法則性に。

「失礼。貴方は、なぜ数あるだろうご主人ゆかりの品の中で、特に“この本”を? 気
5・ 色部耀
主人がいなくなってから半年……最近よく物が無くなる……。その言葉から察するに婦人は「物が無くなる事」と「主人」を関連付けているのだろう。
いや、逆か……主人に関係があったものが無くなっているのか――

「ちなみにご婦人。その無くなった物というのはどういった物で?」

「時計、鞄、指輪……気付いただけでこれだけの物が無くなっています。どれも最近手にしていなかった物だったのでいつ無くなったのかは……それより無くなったかどうかも」

「だから絶対パパが取ったに決まってんじゃん!」

いなくなったというのは離縁と言う意味か、別居と言う意味なのだろう。

「それらは高価な物だったのでしょうか?」

ただ
4・ ピロ子ΘωΘ;
「はい。実は……」

婦人は口を開いたがすぐに俯き黙ってしまった。

私は「大丈夫ですよ。何からでもいいので話してみてください」と伝え、席を立つ。二杯分のコーヒー豆を計量する。ソファーでは理沙が「おじさん気がきくね!!」と目を輝かせていた。

婦人は「理沙ちゃんお行儀良くなさい」などと娘をたしなめていたが、ドリップコーヒーの薫りが立ち上る頃には再び目をふせてしまっていた。

「そう緊張なさらず。どうぞ、コーヒーでも。」

「わーい、これ高い豆のやつだ~。」

「理沙ちゃん、そういうことは言わないの。すみません。いただきます。」

婦人はコーヒーを一口口に含むと、意を決したように語り始めた。


3・ kadotomo
私は、思わず目を見張ってしまった
「へーここが有名な探偵事務所?マジ!ヤバくね?」と
いきなり言葉をぶちかます依頼人。
シナトラの美声をも掻き消す勢いだ。

膝上20cm位の超ミニスカに、ドルマン袖のトップスでの出で立ちは、今風のJKスタイルだろうか?

私が呆気に取られていると、「理沙ちゃん。失礼でしょ。」との声がしたのでそちらに目をやる。
そこには和服美人が佇んでいた。
思わず息を呑んでしまい、コーヒを倒しそうになる。

「オジサン!何ママに見惚れてんの!ウザッ!」との言葉の後に乱暴に椅子に座る、JK理沙。
和服美人は、『すいません』と云う表情を
私に向け椅子に腰をおろす。
辻ヶ花の訪問着
ここは幾つもの事件を解決し、
名探偵とも称される私の探偵事務所。

後にエヴァのED曲にもなるジャズのスタンダード・ナンバー、
フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーンの、
フランクシナトラカバーのレコードに針を落とし、
挽いたコーヒー豆をペーパードリップする。

淹れ終わったコーヒーの香りを楽しみながら、
マボガニー製の安楽椅子に腰掛ける。

「すいませーん」

どうやら依頼人が来た様だ。

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