田んぼ道
春には稲が植えられ、秋には立派な穂が靡く。 人の手が加えられずに、自然と踏まれる内に出来た細い道。
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11・ 天地
>>[[22405825]]

なっちゃん
「……」

 翌日まで待たされるのも困るので、夏郎も屈んで拾い上げる。小さいものなら片手で二つ拾ってしまうので、彼女のペースをささっと追い越してしまっていた。
 そう言えば夏郎の服装について書いていなかったと思うが、彼は無地のグレーシャツ一枚とジーパンというラフな格好で、制服でないと身長と顔立ちからして学生にはまるで見えない。

夏郎
「この野菜、どうしたんだ」

 おもむろに彼は口を開く。ただの疑問として、世間話として言ったような。不機嫌そうな低い声だが、それは彼にとって普通であり、みんなにとっても普通なはずだろう。
10・ 鹿雄
雪白
「あらま」


夏郎に次いで辺りを見渡すと添えていた手がパッと離れる。口を開けてポカンとしているが、然程驚いたようにも慌てたようにも見えないのは、いつも鷹揚に構えている所為かもしれない。


雪白
「なっちゃん、こんなに散らかしてごめんねえ。今、片付けるからちょっと待ってね」


フリルの付いた白が基調のワンピースの女の子にとって屈んで拾うという行動は効率の悪さを物語っていた。

更には散らばったジャガイモ一つ一つを丁寧に手で払ってからダンボールに入れるのも相まって、恐らく片付くのは真夜中……否、沈んで来ている太陽が顔を出す頃かもしれない。
9・ 天地
>>[[22342131]]

彼女の水っ気のある目を見ていると無下にすることも出来ず、静かなこの男は難しそうな顔をして神妙に頷いて見せるのだが、空いた手で浅黒い頬をぽりぽりと掻くと、

「……野菜」

と呟いて足下に目を落とした。ネタを一発やっている場合ではないのである。
8・ 鹿雄
日常生活で感じる事の少ないであろうお互いの距離。普通なら羞恥してもおかしくない状況だというのに、雪白は終始笑顔でご機嫌であった。


夏郎の手引きに甘えて立ち上がり、その場で右左交互に地団駄を踏みながらキラキラした眼差しで夏郎を見つめると握っていた左手だけを離し、夏郎の右手を上下から挟むように添える。


雪白
「なっちゃん、ありがとお。あのね、あのねえ! わたし、感動しちゃったんだよお。握って分かったんだけどね、なっちゃんの手、凄いなあって。いつもお仕事、頑張ってるんから偉い偉いしないとねえ」


側から見れば一時に流行った顔の白いロボットの女の子の腕を中年のおじさんが撫で続け、ダメよと言
7・ 天地
>>[[22327260]]

 とても不可解そうな顔で彼女に成されるがままだった夏郎。雪白が何を考えているのか、俺はいつもよく分からなかった。分かったら分かったでそれは怖い話だが。
 彼女が尻餅を着いた時に体を少し引っ張られたが、彼女があまり重たくないことと、彼自身の体幹がしっかりしていたので、倒れはしなかった。ただ、手も離さなかったので、自然と片膝を彼女の足と足の間に着いてしゃがむような形になってしまった。
 しばらく大脱走する野菜を眺めていた夏郎は、腰を上げようとし、ながら彼女を支えながら立ち上がらせようとした。
6・ 鹿雄
「んん」


突如、視界に入って来た両手を見て数回の瞬き。
そして、少し顔を上げて上目で男性の顔を確認すると、ふんわりとした歓迎の笑顔を彼に向ける。


「夏郎くんこと、なっちゃんだあ。おはよう、なっちゃん」


しゃがんだ際にひざが曲がって出来る猿の腰掛のようになった太ももにダンボールを乗せると、どういう解釈をしたのか左右同じ側のお手て同士で握手する。


繋いだ手を上下に振ろうと試みたその時、ダンボールの重みが後ろに掛かってバランスを失った小さな身体はそのまま後ろに尻餅をついてしまった。

某日、野菜大脱走事件の始まりである。
5・ 天地
>>[[22124828]]

 彼女がまた一つ落とし、屈んで拾い上げようとした時、ぬらりと彼女を影が覆った。彼女の前に立った同級生の大男、圷夏郎は、そのゴツゴツとした大きな両手を差し出す。

「……」

 何も言わない無口な男は、段ボールを持つと言っていた。
4・ 鹿雄
青かった空が茜色に染まった頃。
抜け目無い太陽は暑さを残して沈もうとしていた。


「よいっしょー」


細長い田んぼの道には一人の少女。
その小さな身体に抱えられたダンボールには無理やり溢れんばかりに詰まった野菜が入っており、少女が持ち上げようとすると案の定、ころりとジャガイモが逃げだした。


「あらま」


ダンボールを地面に置いてジャガイモを捕まえる。手で数回撫でるように土を払う。
そして、再びダンボールの僅かな部分にジャガイモを置き、持ち上げると、お次はニンジンが地面へとダイブ。

こんなイタチごっこを続ける所為で一向に進まない少女を田んぼに居る案山子は家にたどり着けるのか心配そうに

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