四百字作文 21
お題から連想される事を400字以内に纏め、SSを作成して下さい。 お題 『存在意義』
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13・ 矢口明樹
化粧品が並ぶ鏡台の前で溜息を吐き、机の上に広げた手紙を何度も見返す。

初めて貰った手紙、拙い言葉と上手いとは言えないけど一生懸命描かれたのが分かる絵。

偽りの笑顔で、作り物の言葉で繕い、他人を演じる。

そんな毎日を疲れた、止めたいと想ってしまっても、またキラキラを求めてしまう。

本当を無くしてしまったままでいいだろうか?

光輝くスポットライトを浴びる価値が自分にはあるのかと自問自答を繰り返す。

鏡の中の自分は疲れた顔していた。

「そろそろ本番です」と声がかかる。

「はーい」と返事をし、表情を作る。

さっきまでとは違う自分じゃない顔。

手紙を丁寧に、ポケットにしまい、深呼吸
12・ おうぎ
自分は何の為に働いているんだろう?

やりたくない事やって、失敗して、怒られて……
怒られたって仕事は終わらないし、無くならない。

こんな事する為に自分は生きているんじゃない。

でも、じゃあ、自分は何の為に生きてるの?


ため息混じりに自宅の玄関を開ける。
ベビーカーが目に入って、「よっ」と室内から声がかけられる。
嫁入りして家を出た姉貴が、また子どもを連れて帰ってきていた。
マンションの上階なのに駆け回る甥っ子を、母(甥っ子にとってはお婆ちゃん)が諌めあやす。だが、元気有り余る甥っ子は今度は姉貴の周りをバタバタし、姉貴にとっ捕まって抑えられた。

「こらー、大人しくしろー」と真剣味のな
11・ 透晶
凍えるほどの冷気を身に纏い、山頂から海を見下ろす。今にも駆け下りそうになる本能を必死に押さえ、彼との約束を思い出す。

 彼は山の民とは異なる色を持っていた。私には彼の言葉が理解できたが、彼には私の言葉はわからないらしく、音を発しても彼は困惑するばかりだった。
 「君はどこから?」と問われ、小さく見える山を指差すと、悲しげに顔を歪ませた。あの山で家族が命を落としたのだと言う。私の手をとり、いつか自分もあそこへ行かねばならないと、あきらめたように笑った。細められた瞳は私の良く知る海と同じ色で、溶け込みたいと、そこに還りたいと無性に焦がれたのを覚えている。

 彼は言った。いつか時がきたら、麓まで
9・ えのき

一体、私はいつまで戦い続ければいいのだろう。

学生を終え、大人になるまで? それとも結婚して子供ができるまで? それとも、体が思う通りに動かなくなるまで?

ーーあるいは、死ぬまで。

ああ、きっと私は死ぬまで戦い続けるのだろう。自問自答して、「死ぬまで」がいやにしっくり来るのだ。

刀を握りしめ、構える。敵を見据え、息を細く、深く吐く。

高まる鼓動。この高揚、臨場感。ギリギリの命のやり取り。ああ、堪らない。どれもこれも、日常生活では味わえない代物。

風を割く軽快な音、肉を斬る鈍い音、それらはほぼ同時に上がる。きっと、その境界線が生死の境目。生物が固体へと生まれ変わる決定的瞬間。

8・ 望月おと
タッタッタ……
軽快なリズムの足音が深夜の街に響く。


「や、やめろ……来るな!!」


その音の前には、必死でそれから逃げる足音と叫び声。
月光がゆっくりと照らし出す現状。


「何故……何故、私なんだ!? 君とは面識すら無いじゃないか!! それに……」


路地裏のコンクリートの壁に追い詰められた男は必死で言葉を紡ぐ。息を吸うのも忘れるくらい、せかせかと口を動かしている。


それもそのはず。月明かりの下に照らされた人物は、世間を恐怖に突き落とした、神出鬼没の通り魔。


男の焦る顔を見て、通り魔はニヤリと笑う。


「存在意義だよ。君には分からないだろうね、お偉いさん」

「……ま
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6・ 恢影 空論
電車に乗ったら、パンダが一匹座っていた。

パンダの感情表現には残念ながら詳しくないが、そこに居ることが当然のように座っていた。しかもその前脚には『純粋理性批判』。

パンダでも人生に葛藤を抱えているのか、自分の存在意義について模索しているのか。パンダですらそうなのだから、生き辛い時代だなぁなどと場違いな感傷が脳裏を巡る。

私はどうだろう。最近は悩む余裕もなく、哲学書など手に取ったこともない。

電車のドアが唐突に開く。

「見つけたわシロクマ星人! 南極大陸のために、天誅!」

「やあエージェント・タナカ。ところで傘は持って来てはいないかい? そろそろ黒縁眼鏡が降る時間なんだ」

「黒縁眼
5・ おうぎ
[4] 9月30日 11:05
おうぎさん
「おはよー」
「おはよう」

進学校でもなければ、荒れているでもない。普通の高校の、普通の朝。

だけど、数日前にきた転入生が、僕の普通を壊した。

「はよー!まだ生きてたんだ」

彼は爽やかな挨拶をしながら僕を足蹴にし、同級生 は皆一様にクスクスと笑う。

彼は僕の日常を壊した。

壊してくれた。


「今日はカレーパンとプリンな」

昼になれば駆け出して、買って戻れば彼は既に自前の弁当を食べている。
いつもの事だ。
買わなければ蹴られるけど、買ったところで意味はない。
残されたパンを頬張る。

美味い。

こう思えるのも、僕の普通が壊れたから。

3・ クラブハウス
モーター音。
水槽内の水を浄化する濾過装置。太陽光代わりの白熱灯。
自然を演出した600×300×360。
60Lの中で精一杯優雅に振る舞う熱帯魚。

夏休み、蒸し暑い教室に僕以外の人はいない。運動部の声が蝉噪に混ざって煩わしい。
学校から家が近い、という理由で夏休み期間の魚の餌やりを任された僕は、この10日間は真面目に仕事をこなしてきた。けれど。

教室でアクアリウムを始めよう。
5月に誰かがそう言った。僕は内心反対だったけれど、クラスの雰囲気は是だった。
リラックス効果があるとか、生物の飼育を通して内面的に成長するとか、そんなことを理由に、アクアリウムが始められた訳だけど。

「君たちは、
私の存在意義ってなんだろう?

かぷり。

好きだった人の大腿骨がボリボリ頬張りながら、ふとそんなことを思った。
私はものすごく惚れっぽい。
そして好きになったらその人を食べたくて仕方がなくなる。
食べたいってのは比喩でなくて食事するの食べたい、だ。
何故なら私はゾンビだから。
好物人間。
好きになった人。

そんな私は他人からしたら存在意義なんてあってはならないものなんだろう。
でも私は存在している。

もぐもぐ、むしゃむしゃ。

おいしい。
ああ、もう好きだった彼もあとわずか。
彼の存在意義は私のごはん、かな?
なんてね。

ごちそうさまでした。

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