THE SANDAI 51
三つのお題を活用し、SSを作成して下さい。 お題はそのまま使わずとも、そこから連想される描写があれば結構です。 お題 『秋』『光』『車』
8PV13コメ

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13・ おうぎ
>>[[25927542]]
「ゲームの話だろ。現実見ろ!」

俊平をじとっと見る。
周りからはモッサいと思われている実はイケメンの幼馴染が、折ってやったがフラグありありの発言をしようとしていた現実を見る。
そして、工場と自分の腕を見る。
勝算がないわけではない。父は遺してくれたのだから。

「この業界で、私の腕に惚れない男なんていない」

父は世界に通用する歯車技師だった。
そして幼い頃から工場か乙女ゲームで遊んでいた私は、男も転がす歯車技師。
不敵な笑みを俊平に向ければ、素直な幼馴染は頬を赤らめる。

「でも、確かに独りでは難しいわ。情報収集してくれる、奴らに顔の割れていない人
12・ おうぎ
「あの紅葉が落ち切ったら、私は死ぬんだろうなぁ」

そんな事をぼやいていた父は、庭の紅葉が落ちきる前に事切れた。
遺されたのは私と貧弱な町工場だけ。
従業員たちは、死期が近いとわかっていた父の斡旋でみな転職してしまった。
私の自由を考えた父の計らいだった。

「由美香……」

葬式後の、物音一つしない真っ暗な工場で座り込んでいれば、モッサい幼馴染が灯りをつけて声をかけてくる。
いや、いつも伸びっぱなしで顔を隠している髪を葬式用に整えたせいで、モッサさのない『工場男子』とかで騒がれそうな顔が露わになっている。

「独りで泣くなよ。俺がい……」
「ねぇ、俊平」
「え?」
「私が根に持つタイプだって
11・ 千古不易
>>[[25875382]]


「あ、エンスト」

坂を登り切った時だった。緩やかに遅くなる、身体に激突する雨が優しく撫で回すようになって、慣性が霞み右に左に傾いて、ちょっとばかりのすかしっぺを湛えて校門を潜る。両足を伸ばし、踏み留まると。

「また、バイクにしよう」

彼女の温もりを背に、僕は誇らしげな真っ赤なカブを見下ろした。
10・ 千古不易
>>[[25875376]]

最後だ、本当に最後になる。初めての最大速。半分までしかアクセルを回した試しがない僕は、カブの、真っ赤な相棒の姿を脳裏に過らせる。これなら、二人でも。直進、真っ直ぐ、ただ厳しい傾きの。

「行けええ!」

「あがれぇえ!」

「行けっぞこれえッ!」

「結婚しよおおお!」

「うえおおお!?」

雨。排気ガス。叫び。熱。凍え、震え。高鳴れ、もっと、お前なら。シフトレバーを蹴る。後少し。二十、一九。数えるのが煩わしい、僕達は叫んでいた。ペルセウスを求めて、坂に立ち向かって、そして相棒は気の抜けたくしゃみを携えて加速を止めた。
9・ 千古不易
>>[[25875370]]

メーターを伺う。針は無情にも中盤、ぐるぐる周回した癖に燃料減ってねえ。分かった、分かったから背中を肘で突くな、行くよ行くから。ハンドルを握る、仄かに温い。ゆっくり、回す、と思ったか。本気で捻る。空かしたエンジンが唸りを上げ、背後に引っ張り出さんとしやがる力に抗って更に捻り込む。馴染んだ位置にあるシフトレバーを蹴っ飛ばし、沈む音が次には高鳴る。スキール音を上げ、寂れた山道に躍り出た。申し訳程度にひび割れたアスファルトは水が滴り黒光り、月光が木々の合間から柱を倒している。視界は、悪くない。加速する、腹に回る両腕を感じてシフトレバーを蹴り下す。緩やかなカー
8・ 千古不易
>>[[25875365]] 
大学に入って、出会った。彼女と、こいつ。剥き出した排気管に小粒が当たる度に湯気を上げ、時折回るエンジンが咳き込んで、ウインカーを出せばお茶目に点滅する。星空の下を人工灯特有の白銀で縫い進んだ日々も、ミルファクに向かって直行だと意気込めば明るく照らして竹林を浮き彫りにもしてくれた。こいつは三年間、真っ赤なカブは僕の。

「いや、二人のか」

「ねーねー」

猫なで声、これは好きじゃない。毎回無茶を頼んで来るし、今度もろくな思い付きでも提案でもない。そう言った夢は七夕に流せば良かろうに、とあくまで他人事に僕はカブに股がった。背後から乱雑に打撃、頭が痛い。
7・ 千古不易

くぐもって気の抜ける音が鼓膜を揺すぶる。振り向けば、僕の愛車が其処にはある。網膜を針で突っつく赤が揺れて、脳味噌は電子信号を刻んだ。

「気は済んだ?」

雨、打たれる肩。垢でくすんだハンドルから手を離し、ゆらゆらしだれる様は何処か僕の感性を妙に刺激する。トレンチコートから伸びた青白い手はとても冷えきっていそうで、目を向ければ言わんとする事を挫きはにかんだ。

「やっぱ駄目かも、次はやっぱり可愛いシビック?」

気弱な言葉に、排気ガスをぽこぽこ上げる愛車を撫でて答えた。バネが縮み反発力のない座席を軋ませて、曲線に触れる僕を伺っていた。最初はあんなに綺麗だったのに、と目で会話して。

「走行距
6・ ANGELUS
>>[[25862788]]
聞き間違いだったか、今日の天気は晴天日和であると天気予報士が塗り潰したくなるくらいに屈託の無い笑顔で言っていた筈だが。眉間に皺を寄せながらも体重を左によりかけるとぎしぎしと奇妙な音を立てて朽ちたベンチが最期の呻きを上げ、バランスを取れるわけもなく、ずぶ濡れになった大地に生ゴミ袋をゴミ捨て場に捨てられた様に打ち捨てられた。未だ流れ出る鮮血の中で、全身豪雨に晒された青年は瞳孔を散大させ、呻くように、恨めしくも諦観に塗れた小言を漏らす様に、小さく小さく呟いた。

「……嗚呼……中々に不幸さ」
5・ ANGELUS
>>[[25862786]]
外出したのはほんの気紛れだった。忌々しくも蝉が喚き、煩わしくも暑苦しい夏が過ぎ去り、残暑ですら帰省届を出した折、何思ったか自分でも分からないけれど、最早分かりたくもないけれど、特に理由も事由もなく、死ぬ程見慣れた街を彷徨い歩いてしまったが、自分が行う外出と言うのは有象無象が思い描く程の平和で安穏としたものではない。自分はちゃんと信号を守った。この目ではっきりと歩く紳士の姿を模した、緑の光を垣間見た筈だったけれど、現実とは非情な有様をしている。

「大型車も殺意を抱くなんざ世も末だ」

夥しい流血を拭こうともせず、曇天に轟く雷鳴が鼓膜を揺らす。そろそろ帰
4・ ANGELUS
哀愁と平穏が漂う静寂な昼間、紅に染まった紅葉が自分達の親から離れ、自然風に煽られて舗装された道路に落ち、渡り行く人々に踏まれて踏みちぎられていく。狐色の安寧と灰色の平和の征服が為され、人為的に形作られた仮初めの自然に映し出された隻腕の青年は、朽ち果て薄汚れたベンチに座り込み、無残にも引き裂かれた服を着こなし、老人の様に背を曲げて項垂れていた。緩やかな冷気と欺瞞に溢れた静謐に映り込んだそれは、生きていたようで死に、死んでいるようで生きていた。血の気が失われた真っ白の肌に生気は無く、まるで死んで間がない屍。怠惰に塗れた緩やかな季節に紛れた遺物。あらゆる実在に紛れた混在。感覚的に存在性を形容出来ない
3・ クラブハウス
>>[[25839825]]
「うむ」
「分かったなら、さっさと俺の手伝いを……」

「しかし、それではダメなのだ」

 小さく、しかしはっきりと、トマスはそう言った。

「今年は雨が少なかったせいで、川の流れが緩やかだ。だから水車の動きも悪い。本来ならもうこんな作業は終わっていなければいかん。自然に左右されて、女子供が苦労するのはいかんのだ」
「お天道さんの事なら仕方ねえだろ。次は雨でも降らす機械を作ってくれるのか?」

 アルフはそう皮肉を込めながらも微笑んでいた。水車を作ると言い始めた時もこんな顔してたなと思い出す。トマスの目には、決意が浮かんでいた。

「分からん、分からん
2・ クラブハウス
「うーむ」

 時は秋。
 イングランドの南西、シルストンでは丁度、大麦の収穫を終えた頃合いであった。
 収穫した大麦もそのままとはいくまい。脱穀するために、水車小屋は昼夜関係なく遠雷にも似たその音を響かせていた。

「なーに唸ってんだよ、トマス」

 トマス・セイヴァリはその中で朝から唸り続けている。

「気に入らん。俺は気に入らんぞ、アルフ」

 しかめっ面で回る歯車を睨みつけながら、落ちた大麦を拾うアルフレートそう返した。

「なにがだぁ? 男はほとんど戦働きで少ねえのに、俺は仕事もしないでここでボケーっとしているお前の方が気に入らないねぇ。それに……」

 トマスは十四、畑仕事をして当

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