コラボ小説「ギストリア戦記第三部・大陸風雲」
コラボ小説「ギストリア戦記」の第三部です。 時系列は打ち合わせの上調整しますので、本編に入れたいシーンを自由に書いて貰えたら、と思います(^-^)/
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354・ 円する
>>353 ・円する さん

「危ねー危ねー……」

魔法で召喚した地神の手が消えると、長刀を持ったままもはや虫の息の戦乙女が地面に横たわっていた。

「!?」

トドメを刺そうと腰の短剣を抜いたゲイナーを、女の持つアイスブルーの瞳が射抜くように見据える。

念話……か?……

瞳が開いた瞬間、彼女の思考がゲイナーの頭に流れ込んで来る。それは念話に似ていたがどこか違う、強いて言えば「より抽象的なイメージ」のようなものだった。

陽光の弱い、トワイライトの世界。広い海と苔の生えた岩山。そして白い肌と大きな翼を持つ人たち……それは有翼人アストリッドの故郷セレンティウ
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>>352 ・円する さん

「はっ!」

鎌を構えたゲイナーが叫び、彼の飛行速度がグンと上がる。

ぎぃんっ!

一瞬の後── 迎撃するように長刀を構えたアストリッドとゲイナーが空中で交錯する。

「火炎弾《パイロビット》!」

すれ違いざま、ゲイナーは後ろにいるはずのアストリッドに向けて数発の火炎弾を放ち── そして空中で失速した。

翼を……斬られた!?

どぉん!

交錯の瞬間、アストリッドはゲイナーの鎌攻撃を防ぐだけでなく、彼の翼を斬り裂いていたのだ。
気づいた数秒後には、翼を失ったゲイナーは墜落して大地に叩きつけられていた。

「クソっ!」


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>>351 ・円する さん

天に仇なす魔竜の杖よ、汝が牙を解き放て──

背中にある漆黒の翼で空を舞いながら、ゲイナーは呪文を唱える。
彼の持つ錫杖が、禍々しい大きな鎌へとその姿を変えた。

「焔牙斬《ブレイズファング》!」

大鎌の刃の部分がオレンジ色に染まる。
ゲイナーの一閃でそれは炎の嵐となり、空中で対峙する戦乙女に向かって赤い大蛇のように襲いかかった。

彼女の持つアイスブルーの瞳に動揺の色はなく、天使は右手に持った長刀を一閃させる。

「何──だとっ?」

さすがのゲイナーも目を見開く。

あろうことかゲイナーの放った炎の嵐は彼女に届く前に雲散霧消していた。


351・ 円する
>>350 ・円する さん

────

「爆炎《ヴェノム》!」

どぉん!

背中の翼で空を舞う魔人ゲイナーが放つ上空からの爆炎魔法は、その熱波と衝撃で1発ごとに数名の敵兵を屠っていた。
敵から放たれる反撃の弓矢は、ゲイナーが魔力の風を纏った翼で片端から叩き落とし、傷一つつけられていない。

「ハッハァ!歯ごたえがないな!」

カラカラと笑うゲイナーの顔には隠し切れない陰が宿っている。
事実、彼は決して喜んでなどいなかった。

ひゅんっ!

「!?」

真空波かっ?

至近距離で聞こえた鋭い風切音に、ゲイナーの顔が一瞬ひきつる。
紙一重でゲイナーは身を翻
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>>349 ・円する さん

「中級……火炎……魔法、ネビル……グリッド……」

飛びそうになる意識を必死でつなぎ止め、ウェンはなんとか呪文を発動した。

イワンを凝視するウェンの左目に真紅の五芒星が現れる。

「むっ!?」

ぱしゅ

五芒星の浮かんだウェンの左目から発射された赤い高温の閃光が、イワンの喉を貫く。

どうっ!

ウェンの首を締め上げていた左手が力を失い、熾天騎士イワンはそのまま彼に覆いかぶさるように倒れ、絶命した。
イワンの張っていた結界が消え、彼らのいた広い中庭が再び姿を現す。

「げほっ、げほっ。危ねー危ねー……」

やや乱暴に巨体を除け、咳き込みな
349・ 円する
>>348 ・円する さん

「うらぁっ!」

ウェンの認識は全く正しく、イワンは魔法も体術も「超一流」と言っていい強敵だった。

ややふらつきながら立ち上がったウェンをボーッと眺めたりはしていない。一気に距離を詰めると、イワンは畳み掛けるように剛拳を繰り出した。

彼の繰り出す暴風のような拳を、並外れた身体能力でウェンは躱し、あるいはガードする。
呪文など、唱える暇もない。

がっ!

「うっしゃあ!」

何度目かのイワンの剛拳を、ウェンは躱しざまに掴むことに成功した。
そのまま身体を捻らせ、腕ひしぎ逆十字固めに入る。

「テメーの左腕、もらった!」

「そうは……
348・ 円する
>>347 ・円する さん

「こっちだハ ゲ。」

声は残像の真反対──イワンの真後ろから聞こえた。

「上級雷魔法、雷霆の具足《トゥルエノ・ラスパーダ》!」

ウェンが右手を振り下ろし、上空の暗雲からエネルギーを吸い取って作られた巨大な雷の槍がイワンに襲いかかる。

「くぅっ!」

ばちばちばちばちっ!

イワンの持つ魔法の長槍『雷槍ブリッツホーク』は雷を吸収し、使役出来る。つまりその槍は雷攻撃に対する盾にもなる。
その使い方を熟知している彼は、ウェンの放った雷の槍をそれで受け止めた。

パキィン!

が、しかし。
ウェンの放った異世界の雷魔法は、イワンの雷槍が
347・ 円する
>>346 ・円する さん


「絶空界《ジェガン・ワルドゥ》」

「!?」

ウェンの蹴り技を防いだイワンが槍を左手に持ち、右手を翳して術を唱える。
ウェンの意識が一瞬暗転し、気がつけば2人は人っ子1人いない荒野で相対していた。
空には今にも雷雨が降りそうな真っ黒な雲が覆っている。

「テメー……変な結界張りやがったな。」

「御明答。城を荒らされるわけにはいかぬからな。しかしよく分かったな。」

絶空界── 独自に異空間《バトルフィールド》を作り出すことで、他に被害が及ばないようにする高度な術だ。この技を使える者は本職の魔導師でも滅多にいない。

が、こ
346・ 円する

────

《孤狼脚″炎昇燼″》

《封魔陣!》

どぉぉん!

人狼魔導師ウェンが放つ爆炎を纏った蹴りを、現れた紅いマント姿の禿頭の槍使いが掌から発生させた結界であっさり防ぐ。
炎と衝撃波を受けた数人の兵士が軽く吹き飛ばされるが、槍使いにダメージはなさそうだ。

「クッソこのハ ゲ、変な技使いやがって……」

ぎりっ

ウェンが歯がゆそうに犬歯を噛み締める。

魔法の暴風で城内を大混乱に陥れたウェンの前に現れたのは、グランツ帝国の誇る熾天騎士『雷迅卿イワン』であった。
天気を操る能力を持つこの熾天騎士は不自然な暴風の発生源を突き止めてこれを鎮め、ついでに元凶であるウ
345・ 円する
>>344 ・円する さん

「はっ!」

敵の剣を受け止めたまま、右手に持った魔剣ロードオブウォーバルでクロトは紅いゴーレム『ヴァーミリオン』に反撃の刃を振るう。
ヴァーミリオンは盾を翳してそれを防ぐが、クロトの一撃は既に傷ついていた紅いシールドを真っ二つに破壊した。

ざっ!

「疾風迅雷!」

破壊された盾を捨て、瞬時に後ろに下がるゴーレムを、しかしクロトは逃がさない。
超速で距離を詰めたクロトの乱撃を受け、2体目のヴァーミリオンもあえなくスクラップとなった。

やったか──

魔力を使い切ったクロトと、負傷したハクロウがたちまち元のサイズに縮んでゆく。

ざわざわ
344・ 円する
>>343 ・円する さん

巨大化し、変身した2人の姿を見て、紅い2体の全身甲冑は危険と判断したのか、ゆっくり剣と盾を構える。

「剛一閃!」

自身とちょうど合う大きさまで同じく巨大化した2本の剣── 聖剣スターダストフレイルと魔剣ロードオブウォーバルを両手に構え、クロトは2体の甲冑に向けて一閃させた。
魔力を帯びた真空波が紅い甲冑──陸戦ゴーレム『ヴァーミリオン』に襲いかかる。

ぎぃぃぃぃんっ!

従来型の青銅巨兵《ブロンズゴーレム》なら、この一撃で2体ともが胴体から真っ二つになっていただろう。

が、『ヴァーミリオン』はそれまでのゴーレムとは明らかに
343・ 円する
>>342 ・円する さん

公都ベルンハイムの街を、解放軍が行進し、彼らの掲げる戦旗が翻る────

公太子ハインリッヒが居ることの影響はとても大きく、ギストリア解放軍本隊は、全く抵抗を受けないどころか、帝国諸侯連合軍の兵士や息を潜めて静かに暮らしていた騎士など、あちこちからの加勢を受けながら街を進んだ。
30分後、ファルケンシュタイン公城の正門前広場に着いた頃には、解放軍はその数を700人超にまで増やしていた。

「あれは何だ?」

「新型の……ゴーレムですかのぅ。」

ハインリッヒの隣に控える宮廷白魔導師のシウスが答える。年寄りじみた口調だが、この天才魔導師はま
342・ 円する

────

「は、ハインリッヒ殿下……」

「如何にも、余はローゼンベルク公太子ハインリッヒである。門を開けよ!」

「はっ!」

ウェンとゲイナーが地下道から城の中庭に到着した頃、公太子ハインリッヒと600名の軍勢はローゼンベルク公都ベルンハイムの正門にいた。
門を守備していた帝国諸侯連合軍の兵士たち12名は、公太子ハインリッヒの姿を認めるやいなや、跪いて許しを乞い、易々と開門要求に応じた。

殊更に尊大なハインリッヒの言い方は無論、計算ずくだ。
そもそも、帝国諸侯連合軍は降伏したローゼンベルク貴族の私兵たちだ。敵に寝返った貴族に未だに従っている時点で彼らが権威に頗る弱いこ
341・ 円する
>>340 ・円する さん

「上級風魔法、ヴォートエアレイド!」

「魔陣烈火弾《ヴァル・フランメ》!」


人狼魔導師ウェンは風を操って中庭から本館に向けた暴風を巻き起こし、一方のゲイナーは空に出現させた魔法陣から兵舎に向け、すこぶる強力な魔法の炎を放つ。


「何があった!?状況を報告せよ!」

城にある窓ガラスがあちこちで割れ、びゅうびゅうと激しい風が吹き込む中、血相を変えて広間にやって来たステッセル元帥に、副官の騎士が震える声で報告する。

「と、突然竜巻が発生しました!あと、兵舎で火災が発生した模様!」

「敵軍らしき影はっ?」

「み、見当たりませんっ!」


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>>339 ・円する さん
ギストリア暦340年6月3日未明──

エールラント王国の女性魔導師ノルトによって異世界テルムズから呼ばれた「人狼魔導師」ウェン・フューリーは、「魔人」ゲイナーと共に薄暗い地下道を歩いていた。

なんでオレがこんなヤツと── それは互いに共通する思いだっただろう。

一方は他方をいけ好かない貴族崩れだと思っていたし、その他方は相手のことを得体の知れない半獣人だと思っている。
これで仲良くなるはずがない。

が……ハインリッヒの立てた公都奪還作戦にとって、この2人は欠かせない存在だった。高い魔法能力と同じく高い身体能力、さらに機転と三拍子備わって
339・ 円する
>>337 ・円する さん

────


「これより、我らが向かうのは公都ベルンハイムである!」

どよどよどよ……

夜営から一夜明けた朝、公太子ハインリッヒの新たな号令が響き、ヒッテルスバッハ城に行くものだとばかり思っていた兵たちの間にどよめきが巻き起こる。

「敵軍主力は我らが来る事を想定してヒッテルスバッハ城に集結している。つまり、今ベルンハイムは手薄である!」

今こそ、我らが都を奪還すべきである。卑劣なる敵に3年前の借りを返そうではないか!

おおぉぉぉ!!

今こそ、公都へ!

公太子殿下、万歳!!

兵士たちのどよめきがやがて歓声に変わる。
十字剣と月桂樹が描かれた
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337・ 円する
>>336 ・円する さん

「お懐かしゅうございます。公太子殿下。」

「……汝に会うのは初めてだが?」

「様式美。というヤツですよ、殿下。」

夜営陣地から約1マイル離れた廃墟──そこに『魔人』ゲイナーはいた。
仮面を取ってニヤリと笑った彼は、少数の供だけを連れて勇敢にも自分に会いに来たハインリッヒに深々と頭を下げた。

「して、用件は何だ?」

「聞けば殿下はこれよりヒッテルスバッハ城奪還に向かうとか。せっかくなのでこのゲイナーもお供に加えて頂きたく思いまして。」

そこいらの農民兵100人より、私1人のほうがずっとお役に立てるかと── ゲイナーは自信満々にそう続
336・ 円する
【公都奪還】

「……これが……あの美しかったシェーンブルクか……」

遠くからでも一望出来る、かつて美城と称えられたシェーンブルク──攻め寄せた帝国軍によって破壊しつくされ、もはや昔日の面影は微塵もない。

廃墟と化した町に無論帝国軍が居るはずもなく、敵軍よりむしろ死霊《レイス》か屍鬼《グール》の襲撃を警戒しなければならないほどの様相だ。

援軍の人豹族やグラナダ海兵はともかく、主力のローゼンベルク将兵約350人の失意は尋常ではなかった。

一足先にガイエスブルクを出立したファウストたち「研究所襲撃班」が帝都レオグラードに向かっていた頃、ハインリッヒ率いる解放軍本隊はヒッテルス
335・ 円する
>>334 ・円する さん

「分かった。では俺は援護に回る。」

ごうっ!

火竜剣を翳し、ファウストがマヤウェルの繰り出す無数の蔓攻撃と、顔の唱える術で放たれる数発の氷弾を叩き落とす。どうやら彼女の意思と行動は切り離されているらしく、ファウストに対する攻撃の手が休まる気配はなかった。
バラバラの軌道で襲いかかる蔓と氷弾。これを全て防ぎきるのは並大抵の腕前では不可能だったが、ファウストはそれを可能にする卓越した剣技の持ち主だ。

シャラは不思議なことに気づいた。
マヤウェルの本体までたどり着くまで、マヤウェルはファウストばかり攻撃し、接近するシャラを攻撃しなかったのだ。
334・ 円する
>>333 ・円する さん

────

ファウストとシャラはヒロトの送ってくれたメッセージに従って『マヤウェル』の居る東側の突き当たりの部屋に向かっていた。

ばんっ!

3階に残っていた数名の魔犬兵を2人の剣豪はあっという間に切り伏せる。
その先にあった両開き扉をファウストが蹴破ると、そこにはテニスコートほどの広さの部屋が広がっていた。

これが、マヤウェル──

部屋に居たのは、身長が7フィート(約2m)ほどで、全身に蔓を絡ませたパッと見「樹木」だった。
が、その中央には女性の顔があり、蔓はうねうねと触手のように蠢いていた。

シャラチャン──

「っ!?」

333・ 円する
【花好きマヤちゃん】

孤児院でシャラと同室だったマヤちゃんは、花を育てるのが好きなとても優しい子だった。
シャラと同じ黒髪だったこともあって、2人はすぐに仲良しになった。

「見て見てシャラちゃん!パンジー、咲いたよ!」

明日には処分しようか── 萎れかけていたパンジーを捨てようとしていたシスターたちをマヤちゃんは止め、自分が育てると言い張った。

マヤちゃんは運動が苦手だった。走るのも遅いし球技も剣術も下手くそだ。
かといって勉強が出来るほうでもなく、シスターは彼女の将来をよく心配していた。

「凄い!綺麗だね!」

「でしょ?あたしさ、お花とお話が出来るんだ
>>331
「ぎ、ぁ……っ」

「良くもまぁ人の世界に土足で踏み込んでくれたもんだわ。あ、いや。直接踏み込んだのはベクターか。まぁいいや。お前もやってる事は一緒だし」

「ぐ、ぅう! うぅー!」

ザハールはもがき、束縛から逃れようとするが唯一動かせる右腕の手はもうない。
呻き声を上げるしかないザハールに、淡々とした口調で語りかけるヒロト。

「俺が一番殺 したかった相手がお前みたいなク ズで本当に良かった……。こんなやり甲斐のある殺 人なんて久しぶり」

ヴァーエンに勝手に踏み入り、人を攫い、化け物に変えた憎しみを。
ヴァーエン、セキレイ、レア。何人もの悲しみを生み出した怒りを。
>>330
ザハールは魔術に長けてるとは言え、戦闘が得意と言えばそうではない。
だからこそ、先刻の幻術《イリュージョン》や暗闇《テネブラ》で相手を錯乱させ自分の有利な方へ戦いを持って行く。
それが常套手段だった。

今回もそうだ。
ヒロトが全方位に武器を展開出来る相手なら、視界や行動を制限し、隙を突く。
それで全てが上手く行く……筈だった。

ザハールはゆっくりと、右に並行移動しながら元の位置から離れる。
ヒロトに探られない様ゆっくりと。

「暗……――!!」

そして自分の視界を確保しようと、暗視《ノクトビジョン》を唱えようとする、が――。
刹那、右手首に鋭い痛みが走る。
>>329
セキレイの瞳に、二人のやりとりは映っていない。
目の前に広がるのは父親に拒絶されたあの時の情景だけだった。

――『こんな化け物の父親になりたかったんじゃない……』――

ごめんなさいお父さん。
ごめんなさい。
そんな苦しい顔をさせてごめんなさい……。
生まれて来て……――



……レイ……。



失敗作で、化け物で……――



――レイ……!!


ごめんなさ「セキレイ!!!!」
「――っ!!」

ヒロトの呼び声に、セキレイはやっと現実に戻って来れた。
自分を引き戻してくれたヒロトの目を見て、「あ…… 」と間の抜けた声を出す。

「ヒロトさん、私……」

「しっ
>>328
「エールラント戦では捨て駒同然の投入でした。何、|私達《魔導士》にとっては失敗作でも兵士を鼓舞するには十分な能力を持っていましたからねぇ。まぁ最期は海の藻屑にされたようですが?」

何を、そんなに残念そうに語っているのだろう?
勝手にレアを連れ去って、精神を痛め付けて、化け物にした挙句不要となれば見捨てて――

「酷い……」

セキレイの瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。

「無理矢理捩じ伏せた心では奏術技は使えない……。レアの失敗を踏まえて、ベクターが次に目を付けたのはあなた! サプリナあなたですよ!」

「……っ」

「優しく手を差し伸べられたのでしょう? 甘い言葉を
>>327
ザハールから発せられた、サプリナ・ミュートと言う聞き慣れない名前はセキレイの本名だ。
彼女が『自分はセキレイだ』と名乗ったその時から、これは彼女の本名で無い事はヒロトには分かっていた。

分かっていたが、嘘だと追及する理由も無かった。
彼女が『セキレイ』と言う偽名を望んだのなら、自分はそれに応えるだけだ。

そしてセキレイの本名を知っていたこの男ザハール。
所長と言う役職から、ベクターの異世界《ヴァーエン》査察や研究事情にも深く関わっているのは確かだ。

(最悪……)

セキレイの心を悪い意味で揺さぶってくるであろう相手に、ヒロトは心の中で悪態を吐いた。

「ふふ……
>>326
「そう、そうですよ! もう大丈夫ですからね。怖いことなんてもう何も起こりませんから……」

「……?」

その少年にヒロトは違和感を感じ首を傾げる。

(何、この子……。何か……)

「う、うわぁぁぁん!!」

堰を切ったように大粒の涙を流し泣き出してしまう少年。
そんな少年の様子にセキレイはふ……と微笑み、慰めようと腰を上げる。

「怖かったですよね。でももう大丈夫ですから。私達が……」
「――!! 待てセキレイ!!」

少年の正体に気付いたヒロトは、セキレイの手を引き少年から引き離す。

それと同時だった。
少年の身体が離散し、火炎弾が二人めがけ飛んできたのは。

【罪業の始まりと終わり】

異世界から連れて来られた被験者の中には、まだ十にも満たない幼子もいた。
解放軍の襲撃に何が起きたのかと怯え泣き叫ぶ子供達に、『自分達は君達を助けに来たんだ』と伝えても、到底信じて貰えやしない。
返って恐怖を煽るだけだ。

当然だ。連れ去られた見ず知らずの土地で、彼彼女の周りに信じられる大人など誰一人いなかったのだから。

そんな子供達に対し、セキレイはいつもの優しい笑顔で声色で、何度も『大丈夫ですよ』と彼らを安心させようとしていた。
気丈に、今自分が出来ることに専念しようとしているセキレイ。
けれどエールラントでセキレイと一緒にベクターと対面したヒロトは分かっていた
325・ 円する
>>324 ・円する さん

「今だっ!弓部隊、斉射!」

本隊の指揮を取っていた青の塔の魔法使いケヴィンが、一瞬の硬直状態から解放され、即座に指示をだす。
炎の壁の向こうの様子は分からないが、弓矢の斉射で少なくとも敵を牽制出来る──

「ハンス、クルト、火炎弾を資材にっ!」

続いてケヴィンはクルトともう1人、炎壁を出現させた火炎術士に指令した。

「はいっ!」

「ああ、任せろ。」

本隊の目的は敵の殲滅ではない。目的はあくまでも資材の破壊だ。強敵と無理に戦う必要は微塵もなく、指揮官ケヴィンはそれをよく分かっていた。

2人の火炎術士から都合6発の火炎弾を受

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