第三部:新たなる暫しの冒険。

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* ロアルの街、別名の1つを【カルケ・スディタティック】の街は、ジュラーディの腹心で女性の司祭にして暫定統治指揮官のアリアムが仮の統治をし始めて居た。 ウレイナが迎えに来た日の次の日だ。 朝も少し遅く、ウレイナの荷馬車が街へ戻った。 政務官ロクアーヌも立ち会いの元で、代理の統治指揮官アリアムと二ルグレスが会い、調査の全ての事を話して記憶の石を預けた。 それから、昼前まで短い時が流れた後。 この街の西側となる街並みの真ん中。 大きな白亜の円形となる石造建造物が在る。 少し風に侵食された感の外側は、描かれたレリーフが形を崩すも。 その堅牢なる様子は、立派な佇まいを見せていた。 コレが、この街の政治の中心となる【サックル=パブレッセオ】と呼ばれる場所だ。 この3階北側の一室にて、白いベールを被り、褐色の肌となる細身で長身の〘司祭アリアム=ユヒアカール〙は、全身をブルブルと震わせるやソファーにて顔を上げる。 彼女の居る統治者の私室では、秘書官となるロクアーヌがニルグレスや神官戦士の2人から聴いた子細を文書にしていた。 「あ、アリアム様。 何か、お飲みになられますか?」 すると、席を立つアリナムで。 「ロクアーヌ殿」 「はい?」 「今すぐ、聖騎士達と兵士長各位、並びに厳罰執行官を集めて下さい。 場所は、地下の牢獄です」 「あ、はぁ」 今は、昼前だ。 Kとスチュアート達は、ウレイナの案内で宿に向かって居た。 また旅立つ許しを得て、今度こそ採取の依頼へ向かう為。 更に、ミラ達とも会う為で、此方は此方で大変だったミラの愚痴りが始まる頃なのだが………。 代理統治を任されたアリアムやロクアーヌと共に、呼び出された聖騎士や兵士長達等が集まるのは、悪事に深く加担した商人数名と、主犯格となる貴族の5人が投獄されていた地下牢。 アリアムが来ると、貴族達は鉄格子に飛び付き。 「冤罪だァっ! ここから出せぇぇぇっ」 「高々っ、一般の人を2人殺しただけだぁ! 我々が重罪に成る訳が無いっ」 「このアマぁ! 我々がどんな血筋か知って居るのかぁっ! 中央にも名の轟くっ、大貴族の末裔ぞ!」 「貴様っ、一文官の身分で、私たちに楯突くと云うのかぁっ!!!」 次々と吼える貴族達。 その地位を傘に着た物言いは、地下牢の細部へ響く。 「・・・」 だが、それを黙って見下すアリアムの目は、氷よりも冷たい。 そして、喚く商人達も無視すると、アリアムが裁きを始めた。 「お前たちが遺体の始末を依頼した魔術師は、暗黒の魔道に堕ちた死霊遣いだ。 何百人と云う者を殺害して、危うくこの辺りを不死者の国に変える処で在ったわ。 因って当然のこと、その庇護をしたお前達は、重罪に問う。 また、その者達より差し出された異性の身体を享受したとな。 その重き罪に見合わせ、斬首だ。 証拠も揃って居るので、一族も連座して貴族の身分を剥奪となろう」 アリアムの話を聞いて、叫んでいた貴族達が口を開いたままとなる。 踵を返したアリアムで。 「ロクアーヌ殿」 「は」 「この捕縛された貴族達の他、今回の事件に加担した貴族は全員、厳正なる捜査の後で、関わり合いの判明した貴族からその地位を剥奪とする。 この街から、そのまま国外へ追い出すので、その旨を広報掲示書、伝達書簡として貰いたい」 「は」 すると今度は、聖騎士達の集まりを見るアリアムで。 「ナダカーク殿」 「は」 ナダカークがアリアムの面前へ出て膝を折る。 「私の伝達書簡を、バベッタのジュラーディ様へ届けて下さい」 「は」 また、アリアムは他の聖騎士達を見て。 「カシュワ殿、シムスン殿、トーレメスタン殿は、厳罰執行官のアリステン殿と裁きの準備を。 本日の夕方を以て、重罪とする貴族達の斬首を行います。 商人達は、その後で」 「はっ」 「畏まりました」 「承りまして御座います」 あまりの早い決定に、理解の出来ぬ兵士長の年配者となる者が慌てふためき前に出て。 「アリアム様っ、暫しご猶予を。 このように火急の決定は、何を以てしての事で?」 すると、その年配者の兵士長に歩み寄ったアリアムは。 「御貴殿は、この悪党を庇うと申しますか?」 「いえ。 罪が明らかに成ってからでもっ」 記憶の石を持つアリナムは、それを掲げた。 「この中に、問題の神殿の中を見た記憶が在る。 この貴族達が庇護した魔術師に因り、夥しい数のモンスターが生まれた。 二ルグレス様や雇われた冒険者が有能だったから良かったものの。 もう少しで、不死モンスターがこの街を滅ぼす処で在った」 「し、然し、それはまだ想定で…」 「煩いっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 アリアムが、その知的で寡黙な普段では考えられない声を上げた。 驚く全員の前で、アリアムは外を指さす。 「貴様っ、持ち込まれた骨の一部を見なかったのか!」 「あ、それは、み、見ましたがぁぁ、アレだけでは」 その時、兵士長の胸倉をアリナムが掴んだ。 見開く彼女の眼は、怒りに染まり、鬼気たる凄まじい気迫が窺えた。 「戯けた事を申すな。 あの細かい骨は、な。 人の身体のごく一部の小さい骨だ。 問題は、一部に2つしか無いハズの骨が、何で無数に存在するか、だ。 大きな骨は、不死モンスターに変わった。 それなのに、大きさの違うっ、小指だのっ、足の指の骨が無数にあつまると云う事はっ、それだけ多くのっ、女や子供やっ、多数の人が死んだと云う事だ!!!!! 暗黒魔法の生け贄としてっ、殺されたのだ!!」 事態の真実が話され、他の兵士長からその部下として来た兵士達の眼が貴族達へ向く。 そして、次第に怒りを含む敵意を孕んだモノに変わる。 この捕まった貴族達の供述は、Kが示した証拠は偽物、魔術師の証言は魔術師達の陰謀と言っては、あたかも罪が大袈裟と、冤罪だと言い放って居たのは確かだ。 然し、それが嘘を吐いての騙し、逃げと解る。 実際に、隠匿した魔術師達がそれだけ人を殺して居たならば。 悪魔の召喚、不死モンスターの召喚を狙った証拠は挙がっている。 その中で、アリアムは胸ぐらを掴む手を離さず。 「多くの人が殺害されてゆく中で、美人や美少女を奴隷にと差し出されただけで、その大罪を隠蔽したこの貴族共を、御貴殿は猶予を以て、許せ・・と申すか。 もし、コレが斡旋所の、冒険者協力会の指導で暴かれた時。 御貴殿は、その政治的なやり取りを代わって遣り、元に戻せると?」 一介の年配となる兵士長は、こんな大きな広がりが在るとは思ってなかったのか。 恐怖に震えて脂汗を流し、顔を左右に動かすのが全力で出来る事だった。 庇う処からして、何かしらの癒着なり、利益の授受が有ったかも知れない。 黙る彼から手を離すアリアムで。 「これ以上、教皇王陛下にご迷惑を掛ける訳には行きません。 速やかに断罪をして、冒険者協力会側にも謝罪せねば。 此方の迅速にして誠意ある処断を以てして、対処の有効性を主張しなければ、今後の国と国の問題となります」 此処で、ナダカークがまた彼女の前に出て膝を折り。 「迅速な、明断と思われます。 二ルグレス様にまで過大な労を掛けた事も踏まえれば、事件の解明を急ぐべきかと。 その手始めとして、死霊遣いまでもを匿った貴族達。 また、その魔術師達の悪事に加担した事がハッキリしたあの商人達を処断する事は、混乱に終止符を打つ事になります」 また、金髪に色白の肌と見栄えも立派な美男のシムスンなる聖騎士。 ロアルの街の様子を視察する名目でか、中央より来たばかりらしいが。 この捕まった貴族とも面識は在ろう、貴族系聖騎士にも関わらず進み出てはアリアムへ膝を折り。 「あの遺骨の事、二ルグレス様や同行した僧侶達の見た事だけでも、此度の事態の一大事は明白。 また、一々と教皇王陛下へ全ての断罪をお任せするのは、こうした事への対処をする為に派遣されている我々、下の者の無能を現す事。 我々からその与えられた権限を用い、素早い対処をする事は、国内の東側を安定するに至ると思います。 中央より赴任致しました私も、この処罰は速やかに行う事を望みます」 カシュワも、同じく断罪を進める事を願う。 そして、他の兵士長から、他の聖騎士からも同調の声が続いた。 今こそ、治安を高めてロアルの街の安定を計れると感じるからだ。 一方、何も言わずして立ち尽くす3名程の聖騎士は、捕まった貴族と昵懇だったが。 こんな事をしているとは思わなかったし、下手に肩入れして飛び火を食らうのは御免と黙った。 そんな彼等へと助けを乞い始めた貴族達。 商人達も、懇意に成ろうと金を寄付した事を述べる。 こうなると、聖騎士や兵士長の昵懇だった者も、付き合いの見切りと、淡々とした見限りの心情を述べる。 下手に寄り添う事はしない。 いや、出来ない。 そして、夕方。 その処断は行われた。 泣き喚く貴族達がどれ程に声を上げようとも、地下の裁きの間では外へ響かない。 持ち込まれた遺品の持つ情報を理解する兵士達から、小さい声で侮蔑語が貴族や商人へ吐かれたが…。 処断は、魔術師達の画策に乗っかって資金を出した商人達も、同様だ。 また、この者達が捕まる際に家族へ助けを求めた事で、混乱を極めた家族は理性を保てなかったのだろう。 罪状が明らかと成って居たのにも関わらず、金を使って助けようとした。 この治安の不安定な街に住む悪党や、ミラ達が来た事で斡旋所から追い出された一部の無頼の冒険者が数十人で反乱を起こした。 この反乱は、カシュワやナダカーク達が兵士を束ねて素早く鎮圧したが。 コレにて数名の死人も出た。 罪の上塗りだが。 断罪された貴族と親しい周りの貴族達は、真相を良く知らなかったのだろう。 昵懇となる貴族達から、減刑・再調査・違憲疑い有りとなる旨の嘆願書が出されが。 コレで軽い罪ならば、何をしても貴族ならば助かると示されるだろう。 それは許されないと、世間に示す為の処置が断首だった…。 この処断された貴族の一族は、事件を黙殺した側近や家族を除いて爵位剥奪の元で追放。 この後、それが世間にも伝わりとんでもない事に成る。 更に、それに併せて。 嘆願書を出した貴族達が事実を知って混乱となる。 中には、魔術師側から与えられた異性の身体を味わった者も居た。 貴族の地位の剥奪される者が次々と現れる事となる。 だが、混乱の収拾が最優先として、この刑の執行の事態は、2日間は伏せるとした。 さて、一方で…。 本日、宿では。 ミラ、ウレイナを交えてスチュアート達が経緯について話していた。 風呂で身体を綺麗にしたり、衣服を改めたりして。 漸く、柔らかいベットで休めると云うものだ。 また、何の理由か。 長逗留していたのに突如、夜逃げする様に消えた商人が何名か居て。 その家族も含めた大勢がいなくなった代わりに、最上階の宿一番となる大部屋に移ったウレイナ達。 良い香りを放つミラは、少し伸びてきた髪の毛を自由にして大テーブルに砕けた。 「ふぅぇぇん、疲れたよぉぉ……」 此方の香りは石鹸のモノだが、セシルも同様で。 「コッチだって、同じだょお。 何百って、不死モンスターが居たんだよぉ? 死ぬかと思ったって!」 その大半はKが倒したが。 ビックリするミラで。 「へ? 何百ぅ?」 「だってぇ、下級の汚怪物とか、暗黒魔法から生まれたビーストでしょ? 死体の臭いに誘われたモンスターも、うじゃうじゃ居たし。 魔意から生まれた小鬼やイミテーターもっ。 私やレメもヘッロヘロに成ったし。 スチュアートなんか、何回もへばったし。 最後まで立って戦えたのは、ケイとグレゴリオさんと二ルグレス様だけだよぉ」 繰り返して驚くミラは、席を立ってKに向く。 今日は、その辺りの話を触り程度しか聴いて居らず。 斡旋所の今後を話し合ったり、訪れる冒険者達への対処に大慌てだった。 「ねっ、どうゆう事っ? 本当に、どんな感じだったのよっ」 風呂に入って髪を湿らしながら、ソファーの1つに横となるKから。 「マジで、酷ぇ有様だった。 残った骨、衣服や装備品の遺品から少なく見て、200、300人は死んでいたな。 あの強烈に蟠る怨念から来るヘイトスポットのオーラは、もっと多く言っても不思議はない」 「う、うそ…。 じゃ、じゃあっ、前々から南の方から聴こえた旅人の失踪とか、消えた冒険者の行方も、まさか・・それ?」 斡旋所の主をするミラには、前々から様々な情報が来ていた。 確かに、主をする様に成った頃から行方不明となる旅人やら冒険者の話は、何処かから来る異臭の様に漂って来た。 だが、それがこんな事に繋がるとは、主の仕事の難しさを痛感する。 片目を開くKで、天井を眺めるまま。 「流民から冒険者に旅人と多くの者が流れて行き来し。 その人々が遣う金の流れから発展が目覚しいクルスラーゲの東側だが。 下手すりゃ推定からも百万以上と年間に移動する者の一部が、引きずり込まれる様に、少し前の北の溝帯側の一件の様に悪事の餌食へと呑み込まれているのかもな。 世界的に見ても、貴族至上主義が崩壊してから推定で300年は経過し。 今や各国の偉い役人ですら、貴族が優位と見えても能力主義が基本と成って来てる。 能力が無い上に、処世術も知らねぇ貴族となれば、過去の栄光に縋っても落魄れる一方だ。 こうした世界的な変化期となると、それなりの悪事も増えるだろう。 ミラ、斡旋所の主も、バカじゃ勤まらねぇぞ」 そして、屯する冒険者や悪辣な冒険者が反乱したりして、酷い事ばかりが起こったとべソをかくミラ。 そして、スチュアート達が宥めて居るウチに、風呂を挟んで食事を頼んだウレイナが酒を持ち込むと、夕方となる頃には酔いも回り始めて煩くなる。 「どいつもこいつもっ、面倒ばっかり! 悪い奴らに加担すんな!!」 酔っ払って吼えるミラ。 「報酬上げろっ!」 「そうだぁ!」 続くセシルとエルレーン。 「リブが上手い! もっと売れ!」 どうでも良い事で煩いグレゴリオ。 呆れてしまうKは、そんな声を聴き流して薬膳スープを楽しそうに啜るレメロアに。 「お前も、このチームに慣れて来たな」 良い意味で聞き流せる様に成ったのか。 やっと表情が戻り、微笑んで頷くレメロアで………。 「グズん、グズん……。 今回は、酷い旅でしたわぁ」 泣くアンジェラと、それを宥めるオーファーが居る。 そして、商人として、女性として普段着となるウレイナと話すミラが、採取したモノの推定する値段を聴いて。 短い間でも確実に儲けて来たと解るや。 「ケイっ、スチュアートっ。 まだ、採取依頼は終わって無いわよっ! 明後日から、また行って貰うからね」 何でか、酔っ払って偉そうだ。 微笑むウレイナは、それも当然と優雅な手つきで食事に酒と…。 やっぱりと思うスチュアートは、ほろ酔いでグラスの中の酒と割る香り付けされた水を指で混ぜながら。 「やっぱり、また行きますか」 仕方ないと頷くK。 「まぁ、時期が外れる前の目ぼしいモノも含めて、採取に動く方が気楽だ。 この街に居ると、嫌なモノを見るぞ」 「なるほど。 そうかも知れませんね」 「人間の鬱陶しい面倒は、ミラやジュラーディに任せろ。 それがコッチの仕事だからな」 Kの他人事の様な言い草に、ムスッとするミラが。 「ねぇ、前にも採取して来た香水の原料とか、もっと取れない?」 紅茶を含んだ後に、Kは前を思い出して。 「お宅が今に着けてる奴か」 「そう。 カンリョウなんとか。 何だっけ」 スチュアートは採取した物を覚えて居て。 「〔寒涼乳蓮香〕でしたっけ」 頷くKで、香り高い紅茶の残るカップを持つ手の小指でミラを示し。 「その原料から出来る香水を、今にミラが付けている。 甘くも、尖る処の無い香りだからな。 女に、特に好まれる」 リキュール類を香り付けされた水で割るミラも続いて。 「この香水はぁね、知り合いが、試しで作ったも〜の。 もう少し、香りを薄くした売り物の品は、ぜーんぶ売れたみたい。 でも、原料が少ないって嘆いてたわ〜〜」 仕方ない話で。 原料の細部まで現実を知るKからすると。 「あの乳蓮香は、とても貴重なモノだ。 扱えただけでも運が良いと思え。 大体、取れる場所は、この国だと何箇所も有る。 時期をずらして採れば、枯渇する程のモノでも無い。 群生地は、溝帯側の一部や北部の荒地だからよ。 大量の採取は、簡単じゃないぞ」 「そぉなのぉ?」 酔っ払って少し面倒なミラだが。 商人のウレイナは、実態を幾らか理解していたらしく。 「確かに、そうよね。 以前に皆さんが採取してくれた時、バベッタで乳蓮香を競売へ持ち込んだらね。 “13年振りの大量!!”って香水職人さんが喜んでたもの。 私も、多くの職人さんへ行き渡る様に、なるべく小分けして売ったし。 良い機会だったと思うわ」 頷くKだが、自然の情報を熟知するのか。 「だが、香水の原料となるモノは、まだまだ存在する。 道を迷わず動き回れば、長旅をせずとも色々と採取が出来るさ」 すると、オーファーより。 「あの、ケイさん」 「ん」 「昨日の午前、椰子の実の様な黒いモノを採取しましたが。 アレは、もっと取れないモノ何でしょうか」 中身の甘い果汁と白い果肉は無論だが。 スッキリした香りの良い表皮と、あの実を気に入ったアンジェラで。 オーファーも気になった。 「あの木の実は、風嵐のお陰でああした生態をする。 固い表皮の下に爽やかに薫る繊維質の層を持ち。 中側の固い殻の下に甘い果肉や果汁を持つ。 その種を果肉と一緒に食う鳥や獣が遠くでフンに交えて種を落とすと。 風嵐で断罪の影へと飛ばされる事で、その場所が生育に合うと根を張り出す」 セシルがフンを嫌って。 「チョット汚いなぁ」 「お前だって出すし、動物なら皆が同じだろ」 「む"ぅぅ」 するとウレイナより。 「でも、あの実は、落ちたモノがたまに見つかって街に運ばれるのが普通。 落ちる前に採取って、珍しいわ」 そりゃそうだ、と思うグレゴリオで。 「危険な場所となるからな。 モンスターに、乾燥したあの気候に、風嵐も」 また、肯定する様に頷くK。 「その風嵐で、落ちた実が他所に運ばれる。 時に、人の目の近くに来るのさ。 だが、落ちた実は、塾し過ぎる事も有るから、新鮮なモノは中々、な」 すると、味を思い出して喜ぶグレゴリオ。 「然し、あの甘い果汁を醤油と塗ったリブは、また格別よ。 ん、美味かったっ」 「はは、そりゃ良かった。 また、新鮮な実の表皮は、食用のオイルに漬け込む事で、その香りも抽出が可能だ。 洒落たサラダ、香水、清掃後の異臭消しと用途も万能だ」 「ほほぅ、なるほど、なるほど……」 新鮮な実の果汁と果肉を味わえて、甘い果汁がリブにまで使えた事が良かったのだろうか。 グレゴリオは、この話にも上機嫌だ。 然し、武器が壊れたスチュアートで。 「明日は、刃を替えよう。 鎌が壊れちゃった」 エルレーンも頷く。 「私も、代用の剣にしよ」 杖を壊したオーファーで。 「私は、安物の杖でも探さねば」 スチュアート達の顔やら腕に残る傷の痕。 また、元気そうにしていても、動きが普段の元気な感じでは無い。 その様子を見て、ミラも相当な激戦だったと解った。 「さぁ、明後日からの採取も頑張ってよぉ。 コッチも、報酬を用意する気合いが違うからね。 出来たか、出来ないかで、ね」 然し、もうそれなりの採取をしたKだ。 「おい、これまでの採取だけでも、10万以上は稼げてるハズだろ? どれだけ儲けるのが、成功の目処だ?」 すると、ほくそ笑むミラで。 「まだまだ、猶予が有るじゃない。 もっと、もっとぉ〜」 上に羽織るジャケット型の上着を食べる途中から脱いでいる。 肩に紐など無いドレスのミラ。 形の良い立派な胸で服を支えるも、酔って我儘に動けばズレる訳で。 「ミラ、胸、胸」 直そうと動くエルレーンが云うと。 「ケイになら、見せても良いけどねぇ」 自身で直す手を止めて妖艶に微笑むも。 どうでも良いKだ。 「早く男を見つけろよ。 恋愛の情の行き場が無くて、酔っ払ったまま裸踊りでもしかねないぞ」 「むぅ、むえええんっ!」 此処で、夜も深まったとお開きに成る。 「ほら、ミラ。 寝よう」 「ハイハイ、明日も忙しいンでしょ。 寝れ、寝れ」 酔っ払ったミラをセシルやエルレーンやアンジェラが連れて、仕切りの向こうのベットへ。 寝かせる時に肌蹴るドレスで。 露わになった立派な胸を見て、恥ずかしくなるレメロアが顔を隠した。 それを見るセシルが、ムゥとムクれる。 「何でっ、どいつもこいつも立派な胸してるンじゃっ!」 吼える彼女の言葉に、オーファーとグレゴリオが仕切りへ振り返る。 セシルが口にする事で、想像したスチュアートがすごすごとベットに潜り込み。 ソファーで寝るKは、馬鹿らしく。 「うるせぇ奴等だ。 鼾が煩かったら、窓から投げるか」 と、とんでもない暴言を口にした。 夜も更けて、皆、それぞれに休むとなる。 大家族用の大部屋だ。 ベットも多く、男女に別れて寝る。 ウレイナも一緒で、セシルやエルレーンと仲良くすると、依頼主なんだか、仲間なんだか解らなくなりそうだ。 この夜、商人達か、貴族の差し金か。 暗殺を狙う者がこの宿に来た。 先んじて察したKが、最上階へと忍び込もうとする女性の殺し屋を捕まえ、外に連れ出した。 人の居ない所にて、尋問をすると。 仲間の存在を仄めかして強気と罵る彼女へ、恐ろしい拷問を仕掛けたKで。 身体の一部を部分部分と裁断された女性は、あっさりと口を割った。 自決しない処からして、悪党組織の者では無かったが。 世界を流離い、治安の悪い街に居着いては、何でも金で請ける悪辣な悪党も居る。 悪い商人が金でそうした者を雇うから、この街にそうした者が噂を聞き付け来ている。 恐らくは、その一部だろう。 朝方だ。 カシュワが治安維持の為に兵士を率いる時に、Kが来て暗殺者の身柄とその仲間の居場所を教える。 既に半殺しとされた悪党達を捕まえるカシュワは、暗殺の目的がミラやウレイナと判り。 その依頼の出処となった貴族や商人の家族へ調べを広げる事になる。 そして、罪を逃れたい貴族や商人の家族が遣った事が判明する。 苦し紛れの中、家長たる者が捕まってどうして良いか混乱した家族が、金を持ち寄って悪党に話を持ち掛けたとか。 もはや、誰を殺そうが事態は変わらない上、死霊遣いの魔術師の策謀に加担したり、存在を隠匿した事を知る商人や貴族の家族は、気が狂ったかの様に泣き喚いた。 この神聖皇国では、悪魔を呼び出す事は本人は死罪の上に、財産や地位の全てを失う。 そして、それが一族の他に親戚へまで連座する事が在る。 頼る血縁まで連座すれば、もう本当に路頭に迷う事となるのだ。 何の不自由無く暮らせていた生活が、本当に一変する事になる。 ジュラーディの部下達は、これから粛々と行動に移る。 どんなに偉い地位に居ても、流石に神聖皇国で悪魔の召喚など許されない。 下手に甘い裁きは、歴代でも【明皇】〘めいのう〙と言われている教皇王エロールの名を穢す。 その意味を理解する政治官僚・聖騎士達は、迅速に事態収拾へ働く。 何より、バベッタでの統括長官イスモダルの一件の経緯が大きい。 前例を体験すると、次からは速やかな行動が出来る。 貴族達や商人達の斬首、暗殺の何も知らないまま。 明けた次の日、スチュアート達はロアルの街中へ出た。 買い換え、補充、色々と動く。 命を狙われていた事など無かったかの様に、和気藹々として…。 斡旋所では、ミラが代行として、若い少女の娘と主をする。 1人、老いた祖父の友人で有望な元冒険者の年配女性が居るので。 この人物と少女に跡を託そうとなる。 少し前まで喚いていた屯する者や悪党の様な冒険者の残りは、斡旋所の雰囲気が激変する事でナリを潜めた。 中には、そそくさとこの街から離れる者も出る。 金を寄越す貴族や商人が消えたので、自分達の置かれた環境が変わると肌で感じたのだろう。 ただ、ミラからすると少し悲しいのは、バベッタの街から何組もの冒険者チームがロアルの街へ流れたのに。 誰も此方へと報告をしてくれず、そのままもっと南の街や他国へと向かった事。 この日の夜に、また一同が最上階の部屋に集まった。 飲み食いが始まると、ミラがその事をKに愚痴るや。 「バ〜カ。 このスチュアートを全ての基準にするな。 コイツは、ある意味でお節介な所と、クソ真面目な処が在り。 また、親が斡旋所の主をしているから、お前たちにも親身だが。 世間に揉まれて処世術を覚える冒険者など、大半はそんなものだ。 第1に、正義感を見せた冒険者達は、此処の斡旋所に屯していた輩から悪い噂を流されたりしたんだろうが。 その苦労は、短い間でも生優しくねぇぞ」 「解ってる、解ってるケドぉぉ……」 「その苦労に報いるだけ、金が出る訳でもねぇ」 「あう・・あぅぅ」 この後、レメロアやアンジェラに慰められるミラだが。 この事変は、主として居る事の大変さをまた知る機会だろう。 この夜は、何階も下の部屋に泊まるクレディレア達も合流して食事やら飲むが。 主代行のミラとスチュアート達は、本来の冒険者と主の関係よりズブズブの関係に見える。 経緯をグレゴリオより、セシルやスチュアートから聴いて。 Kの手腕に恐ろしさすら感じるクレディレア達で。 政治的、冒険者、その双方の人脈を持つからだ。 スチュアートは、金色となる中身のワインを開けて、貴族の令嬢風となる黒いドレス姿に変わったクレディレアへ。 「明日から、我々は採取依頼の継続を再開しますが。 クレディレアさん達も、引き続き協力してくれますか?」 中間報酬の折半を貰ったクレディレア。 1万5000シフォンを仲間と等分していて。 「まぁ、乗った依頼の続きだしぃ。 同じく折半でもいいなら、行ってあげるわよ」 と、ゴールド色のワインを貰っては口へ傾ける。 イネェガ、ノーデンは、凄腕の冒険者のKに興味が尽きないのだろう。 「良いではないか。 こうした時に、この地域の理解を深められる」 と、ノーデンより。 「若い冒険者の仲間にすれば、あのケイが居るならば死なずに経験を得れる。 クレディレア、生活費も含めて先を見ても、参加するに限るぞ」 と、イネェガが言う。 傭兵として立派な筋肉質の身体をする中年女性のウィグネルも、今はラフなタンクトップの布服に革ズボンと云う姿なれど。 幾らかワインで酔いながら。 「主さんに顔を覚えて貰えるならば、好都合だ。 是非に、参加しよう。 新しい仲間にも、冒険者の依頼が様々と教える良い機会じゃないかい。 最近は、モンスターに関わる討伐や調査依頼ばかりで、少し詰まらなかった」 少し離れた処で、エルレーンやらオーファー達と話す若い仲間を見る。 あの激戦の後から来た皆は、その様子が気になるのだろう。 ウィグネルも同じだが、様々な視点からの話を聴きたがる若者達が、他の者と話し込むのは悪くない関わり合い。 敢えて口を挟まず、任せている。 その様子も含めて見たクレディレアは、ウィグネルの家が東の大陸で行商人をするので。 「あら、ウィグは、採取とか好きだっけ?」 「ん〜、嫌いじゃ無いよ。 ただ、アタシは自然のことを良く覚えられないから、こうしたことは下手だ。 誰か、玄人の者が同行してくれるならば、それは有難い。 そして、あのケイならば、打って付けだ」 此処で、ウレイナと採取の話をしているKが、また同行すると云う彼女に呆れてしまい。 「おい、まだ着いて来る気か? 後はスチュアートに任せて、バベッタに帰れよ」 だが、誰に注意されても、コレに関してはとても強情な一面を見せるウレイナで。 「嫌です。 もっと稼げるかも知れませんしぃ、商人として採取物の知識を得れるならば好都合ですの。 それに、この街の治安や情勢も、漸く改善されて行くみたいですからね。 商売に本腰を入れられる・・かも」 商談、相談、貴族との話し合い、それを経た今日の彼女は、少し言葉遣いが正しい。 それに、どうもKへ尊敬の念をいだくのか、慣れ親しむスチュアート達とは対応が変わる。 紅茶に甘い砂糖漬けの果実を落としたKが。 「はっ、流石は大商人サマ、逞しい限りだ。 一昨日に持ち込んだモノ、もう売ったンだろ? 幾ら入った?」 午後のこと。 斡旋所に居たスチュアートへ、2万シフォンの中間報酬を出したウレイナ。 いきなり高額を貰い、スチュアートは心配したが。 人の居ない斡旋所で、採取したモノが売れたと彼女は笑顔だった。 今、少し酔い始めながらも商売や金の話から顔が緩むウレイナで。 「まぁ・・10万以上は・・ね」 「はっ。 イヤ、もう少し上だろう? この最近の治安不安や都市の政治情勢からして、冒険者が採取依頼を成功させた様子は薄い。 品薄状態ならば、競りや商談も足元が見れたハズだ」 すると、頬に手をやるウレイナで。 「貴方に足元から見透かされるのも、悪く無いですね」 このやり取り、全員から見られて居る。 セシルやエルレーンからすると、Kがその気ならばウレイナを愛人に出来そうと密かに興奮するも……。 その話がとても気になるクレディレアは、どれだけ儲けたのかと。 「ちょ、ちょっと! どれだけ儲けたのよっ」 と、ウレイナに言う。 ノーデンとイネェガは、依頼主だとクレディレアを宥めた。 だが、その前の前例も有る。 セシルは、街道の北方にて、悪党が採取して集めていたモノの事を思い出して。 「アレぇ? そぉー言えば、サ。 前に依頼でバベッタへ持ち込んだ密猟品とかって、確か・・100万とか稼げたってミラが言ってたヨね?」 頷くミラで、ワインをグラスに注ぎながら。 「そうねぇ。 その前の依頼で持ち込まれたモンスターの歯と宝石だけでも、15万は超えたしぃ」 驚くクレディレア達で、堪らず腰を上げたクレディレア。 「す、スチュアートっ。 貴方達ってば、バベッタに来てどれだけ儲けたのっ?」 「あ、あぁ〜〜〜、ケイさんのお陰ですがぁ。 10万以上は、ん・・・もっとかな?」 その額にまた驚くクレディレアで。 「は、は? チーム結成から、2ヶ月や3ヶ月で、じ、じ、じゅ、10万以上ぉっ?」 また酔うミラも、焼いたチーズの掛かる魚の料理をフォークで刺しながら。 「もっ、と、じゃない? セシルの食費、まあなえ(賄え)てるひ。 モグモグ……」 この一言に、セシル以外のチーム全員が頷いた。 「おいっ! 何で全員じゃあ!!!」 怒るセシルだが、レメロアも少し首を竦める程度で食事をする。 チームに馴れて来て、少食ながら溶け込んで来た。 腰を席に戻すクレディレアは、スチュアートの袖を掴むや。 「チョットっ、もっと報酬を求めなさいよっ」 小声で怒られる。 「あ、あ〜でも、他にも依頼を回して貰えたり。 時に、お店で旅の準備の用立てとか便宜してくれますし〜〜」 「おバカっ。 そんなモノより、お金でしょ!」 イネェガとノーデンとウィグネルがどうしょうも無いと思う中。 スチュアートがクレディレアより説教を喰らうハメに。 ま、明日も遅くはなれない。 少しして、チーズを食べきったミラが。 「さぁ、明日に備えて寝ましょ。 明日は、私も色々と面倒だし」 何事かと思うセシルより。 「うひひ、綺麗な殿方と見合いかな」 「煩いっ! それどころじゃ無いっ、冒険者協力会の査察官がくるのよぉ!」 これには、Kが目を細めて。 「お前たちの調査も含めて、か?」 頷くミラ。 「イスモダルの1件、短期で違反金の返済を大方でも終えた経緯。 その途中で、この騒ぎだから。 この街で事件の経過を先に聴くんですって。 昼間に、姉さんから早馬の通達が来たの」 「なるほどな。 もし、片目にバンダナをする大男フィラモって奴が来たら、偉そうな冒険者が宜しくと言ってたと伝えてくれ」 この物言いに、ミラの方がドキッとして。 「ちょ、ちょっと、まさか……」 これには、Kも不敵と微笑み。 「少し、な」 「はぁぁぁぁ、怖いわぁ」 逃げる様に、自分のベッドへと去るミラ。 スチュアートは、今のやり取りで何となく察した。 (協力会の方々にも、知り合いが居るんだ……。 凄いや) クレディレア達も、その後に部屋へと帰る。 「スチュアートっ! 最終的な報酬は、もっと貰いなさいよっ」 強い口調で耳打ちして帰るクレディレア。 困るスチュアートで。 「ケイさんっ、いっぱいお願いしますっ!」 呆れて片目を少し開くKで。 「あのな、量が多くて儲けさせると、もっと交渉しろとウルセェぞ」 「あ、うーーーーんっ」 頭を抱えるスチュアート。 そして、皆が寝る。 本日は、不躾な客は誰も来なかった。 そして、次の日には採取へ向かった。 呪われた神殿やその中の様子を証明する証人は、記憶の石と二ルグレスや神官戦士の2人の証言だけでも足りた。 さらに欲しければ、応援で行った僧侶3人も含めて十分に証拠と成ったのだ。 何の事情聴取も無ければ、詮索の要求も来なかった。 ------------------------------------------------------------ *この続きは、この頁へ続けて掲載致します。 次の予定は、6月となります。 掲載や修正の時に、一時的に読めなくなりますが。 ご了承ください。
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