崩れ行く意図

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 広い和室に残る二人が無言を貫くので、母雲も言うにも言えず、静粛な空気が鼓膜を刺激し、場の雰囲気が重い。 「……うむ。漸く行ったのう。イヌガミよ?」 「安心するが良い。この部屋へ他の者は、干渉出来ぬので、言いたい事を口にして構わん」 「抜かりなしであるな。ならば問う。何故、先程手を抜いたのじゃ?」  真顔で淡々と告げる少女の声色は、変化しない。 「……なんの事だ?」 「とぼけるな。他の者を化かせても、儂を欺く等出来ると思うかえ?」  その言葉に、白き髭に手を当てて一つ溜め息を吐いた。 「ふむ。我は、全力……では無いのを気づいていたか?」 「当たり前じゃ。儂の見立てでは、先の空間を吹き飛ばす程の威力を想定しておった。あれは、あんまりではないかえ?」 「……うむ」  観念する口調でも、クオは、乱さない。寧ろ、無言を続け、瞳で語る。 「わかった。答えてから、飛びかかるのは、よしてくれ」 「舐められた事されれば、やり返すのが流儀じゃ。して、何故に回りくどい事をした?」  平然と続ける問いに、間が空く。ただ、クオの話通りなら、確かに回りくどいと母雲も頷く。  真知の輪、ハニモルリングを渡すだけなら、何も化か死合い等する必要性がないはず。素直に渡せば、済んでいたのだ。 「回りくどいか。そうは言うが、真知の輪に関して、白永琵は、知っているのか?」 「儂等の世界に無い物は、知らぬ。じゃが、全く知らぬ訳ではないわい」  ――えっ!? クオの発言に思わず母雲が顔を見るが、相手にもされない。 「それを理解し、件の言いなりなのか?」 「クククッ、何が言いなりなものか。この小娘が勝手に決めおった話じゃ。儂が決めた訳ではないが、今は策に乗っておる」 「……あれは使い方では、世界の均衡を滅ぼす故に、封印しておったのだ」 「ならば何故に反発し、結果儂に勝ちを譲る?」 「件の真意と、白永琵の現状を把握しておきたかったのだ」 「やはり、(はかり)に掛けおったか。儂を見下すとは、良い身分であるな」  ――鋭き目付きで穿つ。それでも無視をして話を続ける。 「今のままでは、鞍馬天狗との闘いは、苦しそうだな」 「妖気に関して言えばであるな。ただ、お陰で儂の妖気解放が進んだわい。鞍馬坊主には、遅れなど取らん」 「相変わらずではあるが、人の身とは言え、戦術妖術は健在のようだ。それよりも、件が真知の輪を求める真の理由……娘よ、何か聞いているか?」  ――わ、私? えっと、えっと……ハニモルリングが件が求める理由と言われて思い出す。 「な、何も聞いておりません」  弱々しくも、事実を伝えるとクオは、嘲笑っていた。 「やはりか。ならば、何故お前は、それに応えている?」 「は、はい。その、私はこのままだと……」  簡単ながら、自身とクオの経緯を説明し、覚醒を遅らせる事が出来る可能性があるので、手伝う事とを話すると…… 「白永琵に取り込まれるとは。ただ、真知の輪を使い、覚醒を遅らせるか……なるほど」  一人納得しているので、思わず大きな声を出す。 「ぁ、あの、それがあれば、件さんが言ってる通りになるのでしょうか?」 「確かにあれを使えば、可能性は、ある。あるが……後は、使い手次第だ」 「使い手……次第?」 「そう。あれもまた、この世界に伝わるルーンの腕輪同様、謎に包まれた神具。可能性は、あるであろう」  ……まただ。そう思えるのは、ハニモルリングに関して、詳しく話をされず、何かはぐらかされている気がするのだ。
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