雪風

  作品、読ませてもらいました。 格好いい悪を目指す。非常に面白いテーマだと思いました。 肝心の中身は、登場人物の言動に対する主人公の考えやそれに対する反応などでしっかりと表現されていて、とても良かったです。 一人称の強みも活かせていると思います。 反面、一人称の弱点もはっきり出ているように感じました。 もう一つの売り文句である、ダンジョンマスターとして自らが創ったダンジョンの情景描写不足は最たるものでしょう。 そう多くは必要ないと思いますが、やはり必要最低限は欲しいです。さすがに、洞窟という単語だけでは如何せん想像し辛いのが本音です。 しかしそれ以上に想像できなかったのが『世界観』です。 魔王や勇者、魔法や魔物の存在から最初は王道なファンタジーの世界かと思いましたが、その後に自動車や電化製品・ネットといった現代的な概念の登場で、正直、物語の舞台がどのような世界なのかわからなくなってしまいました。 特に、国が明確な敵として書かれていますが、どのような政治体制が敷かれまたどのような政治状況や方針なのか、司法や経済・国勢などはどうなのかが全くわかりませんでした。 敵としてはわかりやすく明確なのですが、しかし世界観や背景描写の圧倒的な不足で、その中身は空っぽだと言わざるおえません。警察という敵役組織にも同じことが言えます。 これでは、主人公が掲げる格好いい悪の着地点。根幹的なこととして、いったい主人公は最終的にどうしたいのかも曖昧なものになってしまうでしょう。 とても面白いテーマの作品で実際中身も面白いのですが、それ故の難しさも感じました。 『勝てば官軍、負ければ賊軍』という言葉もあります。 また、正義の正という漢字は、もともと征服や遠征などに使われている『征』という漢字から成った説があり、『征』の持つ意味を考えると正義というのも一筋縄ではいきません。 さらに『悪』はよくない意味ばかりの言葉ではないですしね。悪魔が良い例でしょう。 さらにそれらに『かっこいい』『かっこわるい』という人それぞれの価値観を加える……。 長々と、しかも色々とキツいことを書いてしまいましたが、本当に面白い作品だと思います。 執筆頑張ってください。  
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