天川 青大

この作品を2回、読ませて頂きました。 笙の音を静かに響かせながら幽閉の地で交わされる対話劇。 室町幕府を打ち立てた足利尊氏・直義兄弟の物語ですね。 なるほど、エブリスタに、この時代を描く作品の無い理由が分かりました。 翻意と逆転劇の連続で、分かりづらい。 南北朝時代の出来事を少し調べました。 鎌倉時代~室町時代への変遷の渦中で、京都と奈良・吉野とに朝廷が並び立って日本史上異例の事態に。 後醍醐天皇が正統を主張して権力を委譲しなかった。吉野に朝廷を立ててしまった。 それが南北朝並立の発端であった事だけは分かりました。 武将達は、昨日まで共に戦ったと思えば、明日は敵対関係。 疑心暗鬼が渦巻きながら、目まぐるしく権力が移り変わり物情騒然として誰もが落ち着かない。 尊氏の側近であり、室町幕府の要職にあった師直は、尊氏に劣らぬ実権者、直義を討つ為に尊氏の屋敷を取り囲む暴挙に出ています。 もう、訳が分からない。スッキリしない。 混沌として気持ち悪いと述べられた意味が分かりました。 この時代を題材として作品を書くのは至難のわざだと思います。 歴史解釈を分かりづらくしている理由の一つは、この時代の逆転劇が天皇への敬意や大義ではなく、武将の権力抗争が主軸だったからなのだろうと感じました。 天皇を敬うのではなく、いや、敬いながらもその権威を利用して、権力を掌握する事が目的となってしまった武将達の相剋。 そして、もうひとつの視点。 尊氏と直義の関係を悪化させ、同士討ちをさせたのは、尊氏の妻・登子の計略であった。 新熊野の存在を、ほのめかし、直義は登子の作為に気づかず、新熊野を養子にしてしまう。だが、のちに、それは早世した足利家嫡男、長兄の子供だったと明かされます。 北条一門から足利家へ嫁した登子は、復讐を果たした。 この物語では、尊氏と直義の兄弟愛が主軸ですが、権力抗争の裏に女の糸引きが語られています。 なるほどと納得してしまいました。 もうひとつ。印象に残ったのは、幽閉中の直義の述懐です。 神通力を得る為に30年不犯の誓いを立てたが、妻を不憫に思い、誓いを破ってしまった。 妻でもいけなかったのか? 誓いを破った事が、この境遇を招いたのか? このような視点は現代人に無いものです。 歴史を探究する国香さんだからこその深い洞察と見識だと感じました。 ありがとうございました。m(__)m
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まず、二回も読んで下さって、ありがとうございました。その上、レビューまで頂けて、とても幸せです。非常に難解ですのに、ありがとうございました。しかも、とても丁寧に書いて下さって――。 この時代は本当に複雑ですよね。そして、短編ではとても書ききれません。長編にすれば、もう少し読みやすくなったり、理解しやすくなったと思いますが、短編にしたことで、最低限のことしか書かなかったのに、ぎゅうぎゅう詰まり過ぎて、自分で読み返しても息苦しいです。いつか、長編でリベンジしてみたいと思います。 この時代、二つの朝廷のことは避けて通れませんが、これを説明するには、承久の乱やら持明院統、大覚寺統の話にまで遡っ
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