『夕焼け隣に花が咲く』  今作は、実は物凄く地味なテーマ(方親同士の再婚によって、新しい家族が出来た少年の日常を割と淡々と描く)にも関わらず、その物語の「深さ」に引き込まれ、いつしか数百ページもある本文をずっと追ってしまっている自分がいます。  ビックリしました。この作品の作者様は、なかなか気付かないかも知れませんが、小説を執筆する上での「ベーシック」が出来ているのです。  冒頭、夏の情景を表現する際、「セミ」という単語を一切用いずに「セミの鳴き声」を静物画の様なファクターで構築する一文が出て来ます。 「ああ、この人、凄く上手い人だ!!」そう思いました。  初めての義母・義理の妹との食事会の模様を、友人たちとのコミカルな「妹講座」のインサート・二重構造で回想シーンに仕上げ(とにかく、難しいテクニックをさらっと書いている)期待感・不安感・それからちょっぴりの切なさを読ませてくれるのです。 (「好きなお母さんのタイプ」を母親の記憶がない人に訊ねる、何気ないシーンがキュンと来たり、修羅場なのに「鯛食べなきゃ」と食事内容について思いを巡らせる場面など、本当にリアルなのです)  恐らく、今作のモデルの舞台になっているのは、福岡県筑豊地方だと思われますが、独特の地方都市の夕暮れや学校生活の穏やかさ、夏の大きな人生の転換期までもが、最高の青春を描き切っています。   100ページ~200ページ以降は、急に「逆ハー」的展開になるので、苦手な方はちょっと……とお思いでしょうが、単なる「モテモテの主人公」を書きたかった訳でないことが後に分かるので、大満足です。  主人公・裕也の等身大の少年像(メンタルがちょっぴり弱く、どこかしらか優柔不断)も味わい深く、一人ひとりがこの作品の中で「息をしている」そういう風に感じられるのです。  密かに、高校演劇化・某国営放送のドラマ化を熱望しています。
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